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Channel: 英国式自転車生活
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フランク・パターソンという存在2

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実際の話、私は小学校5年のときにフランク・パターソンに取り付かれまして、早々にサドルバッグ派にあこがれ、中学1年の時にはすでにフロントバッグをやめていました。

英国へはじめて留学した時、まず自転車が気になったのですが、残念ながらパターソンの絵にあるような自転車は最初のころは眼にすることがありませんでした。

ただ、私が漠然と感じていたこと、パターソンの絵によく出てくるサドルバッグがブルックス製でないというのは、ある田舎町のバザーではっきりした。

そこで私は始めて、「あっ!これだ。」というサドルバッグを見つけたのですが、売っていた老人が、
「これはなんだかわかるか?ブルックスじゃない。戦前のチョシーだ。これはな、輪転機の外側に貼る樹脂布を使っているからちょっとやそっとのことでは切れない。時代によってはうっすらと表面に文字が見えるものもあるんじゃ。パターソンがよく絵に描いているのはこれじゃ。」
さっそく、付けて帰りました。しかし、このチョシーのサドルバッグは、身長が175cm以上ないとタイヤに擦れる。手には入ったもののしばらく使う機会がありませんでした。

しかし、その老人から、そういえばEにあるアンティック屋がフランク・パターソンの絵を常時置いていたな、というので、行ってみたのでした。たいへんな量がありました。棚に一杯あった。残念なことは、それらがすべてリプロであったことです。しかし、リプロがあるということは本物もあるということ、そこからたどって、行き着いたところはフランク・パターソンの研究家だったムーア氏でした。

彼は細長い書斎の片側の壁面すべてを引き出しにして、年代別に分類していて、もう片方の壁面には部品ごと、主題別に分類していて、私はちょっと舌を巻きました。

一般にはまったく知られていませんが、パターソンは水彩画をかなり残しています。大きいものは30号ぐらいある。これらはまったく複製されたことがありません。私は別々の人のところで計30枚ほど見ましたが、パターソンの絵を編纂して何冊か画集を出版した故ジム・ウイリスも「見たことがない」と言っていました。大迫力です。あれを見るとペン画はしょぼく思える。私の見た30枚ほどはすべてクロード・ロランの絵やニコラ・プッサンのようにセピア・インクによる淡彩でした。

ムーア氏もそうした巨大なセピア淡彩の作品を見ていませんでした。

もうあれから25~30年ほど経ったわけで、作品のその後をトレースするのは難しいでしょう。再評価でスポットライトを浴びるまで、まだ20年ぐらいは埋もれ続けるのではないか。

じつは私とジムの共通の友人の一人がパターソンのふすまぐらいの大きさのセピアの絵を三枚持っていました。ジムはそれを見たことがなかった。
「またジムは画集を出版するらしいじゃないか、これも貸すのかい?」
「見せるわけないじゃないか。自転車関係者でこれを見せたのはお前が最初だ。ジムにはナイショだぞ。」
「なんで?」
「お前さんは美術館の仕事もしてただろう。だから見せたんだ。オレは思うんだが。そこにただ自転車が描いてあるっていう、ただそれだけの理由でパターソンの絵を騒ぐのは、亡くなったパットも喜ばないように思うんだ。世の中の彼の絵のほとんどは、雑誌のためのものじゃないか。ところがこれらは作品として描かれている。コマーシャル・アートじゃないんだ。そうは思わないか?パット自身が、雑誌や画集に出すチャンスがいくらもあったのに、生きている間は一切これを発表しなかったんだ。それは、彼自身がこの絵を複製画や絵葉書にして、大量複製生産してしまうのをこころよく思っていなかったからに違いないよ。彼は自分の全存在をかけた、indisputable masterpieces を残すのを考えた。だから、これらの巨大なデッサンは、世の中の美術館が、パットを自転車界に君臨したレッサーアートの重要な画家として認知して、作品を買い始めたあとに、人目に触れさせようと思っている。それまでは、知られざる傑作として埋もれさせておくのが、パットのためじゃないのかな。」

フランク・パターソンの全貌があきらかになるのは、まだまだ先のことのようです。

写真右端は故ムーア氏。左端の2台はパターソンにあこがれてほとんどスクラップ同然のところからサイクリングに使えるまでに戻したもの。

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