先日、ある方から、「5段よりは6段のほうが山は登れますよね」と訊かれたので、そんなことはないとお答えしました。初歩的な話なのです。
写真に出したのはどちらも6段変速ですが、片方はローが26T,もう一方の金色のほうはローが21Tです。どういうことかというと、金色のフリーではローまでギアを落としても、もうひとつのほうのミドルギアぐらいの軽さしか登り坂で得られない、ということです。
ではなぜ、片方はそんなにギアが接近しているのか?ギアチェンジしてもほとんど変わった気がしない。
それはレース用だからです。
坂へさしかかったら、ギアを落とそう、とローへ入れたら、楽ではあるけれど速度が落ちたらレースに勝てない。なので、「速度を落とさないで、集団についてゆく、他の人のペダリングピッチにあわせて微妙に回転ペースを変えたい」そういう集団走行とレース用のためにそういうお互いが接近したギアレシオになっている。
実際のところ、私はバーミンガム・サイクロの三段変速でながらくツーリングをやっていたので、変速器は3段でもなんとかなる、5段もあれば充分と言う考えです。フーベルト・オッパーマンはこのバーミンガム・サイクロで1200km一気乗りもやっていた。トルクのかかり方は5段変速よりさらにスムーズでなめるように加速します。チェン音は絶無に近い。フリーは80年経ったいまでも調子が良い。
変速段数は多くても困らないだろう、と言う人もいるかもしれませんが、「多いのは鬱陶しい」。これはモーターサイクルをやっていた人ならわかると思います。3段変速の各ギアの守備範囲が広いバイクはエンジンが幅広く働いている感じで楽しい。段数がやたら増えればチェンジが煩わしいだけです。
セメントの路面からアスファルトの路面に入ったら、10段変速、11段変速のギアを一枚落とし、斜め前方から吹いていた風がカーブのあとで真横からになったら1段あげて、自分はひたすら路面を見てハツカネズミのように回し続ける、、、。それは風景も道端の花も関係ないレースの人の走り方でしょう。ツーリストのやることではない。
しかし、古いイタリアもののフリーはすばらしい。この金色のものと、シマノの中国製の最新のものと、カセットフリーを、どこかの商店街で主婦に回させてみて、「どれが一番高級だと思いますか?」と訊いたら、8割以上がこのゴールドのものと答えると思います。誰が手を触れてもその差がわかる。音がいい。
こういうものの製造がなくなってしまったのが何とも残念でなりません。無意味な段数増加競争に引き込んで、自転車の本家ヨーロッパのこうした名門メーカーを駆逐した日本の罪はきわめて深いといわざるおえないと思います。