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Channel: 英国式自転車生活
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太陽の無心

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ここに出したものは、1960年代の『自転車のおまけ』です。

私にも記憶がありますが、自転車を買うと、こうしたメーカーが作った小雑誌、警視庁交通局が作った小雑誌、自転車産業振興協会が作った小雑誌など、4~5冊がセットできた記憶があります。

これがなかなかよくできている。これを読むと一通りの交通法規や自転車の取り扱いと整備・構造の基礎、調整法、自転車の歴史、人間工学的な理論までわかるようになっています。

なので、あとは信頼できる自転車屋さんを知っていれば、不安は無かった。この当時の自転車雑誌は「旅とサイクリスト」という雑誌名からわかるとおり、「紀行文」が重要な地位を占めていました。

つまり、旅のソフトウエア部分と、自転車にまつわる「文学的」「情緒的」「人生観」的なところに主眼が置かれていたといえます。つまり「こころの文化」のなかに自転車趣味があった。

一方、現代の雑誌を見てみると、新製品ニュース。「広告だと読者に悟られないように、記事をよそおったタイアップ記事」がほとんどです。新製品がない時は「プレミアムを払わないと手に入らない『お宝物羅列』。つまり「モノ中心の文化」にどっぷり漬かって、物質偏重文明のヌカ漬けのニオイがする。

この小雑誌のなかを読むと感動しますね。変速器の理論などが詳細に説明され、「変速段数が多くても、トップスピードも最大登坂能力にも差は出ない。要するにギア比の問題で、その中間部分の段数は、走行抵抗と足を回すピッチの関係が、オーバーランしない限りにおいて、段数が多くても少なくとも、使用上さしたる問題は出ない」と書いてあります。

さらに興味深いのは『隣同志のギア比の差が余り小さいと計算では差があっても脚に感じないことになります』と書いてあります。書いたのは自転車産業振興協会。良心的です。

これはまったく技術的に正論なのですが、これを今自転車雑誌に書いたら広告スポンサーが黙っていないでしょう。「変速段数が多いほど高価で偉い」というヒエラルキーがゆらぎますから。

いま、1台4800円とかの自転車を売っている流通屋さんところの自転車には、たぶん、こういう小雑誌は付いていないのではないかな?買ったことが無いのでわかりませんが。

そのなかに交通法規もこども向けに書いてありますが、たぶん、こういう小雑誌を自転車に付けなくなってから、日本の自転車交通マナーがぐちゃぐちゃになったのだろうと言う気がするのです。また買ったほうも長く自転車を使うと思うので、そうした構造理論のところや整備や手入れのところもシッカリ読んだ記憶が私にもあります。安売りはそういう部分もすべて破壊したと私には思えてなりません。

このなかに「自転車の手信号」のやりかたが警視庁交通局の指導で出ています。私は長年これでやってきました。方向指示器の無い古いモーターサイクルに乗っている人も同様のはずです。

ところが最近はロードレーサー系の雑誌から誤った手信号がここ2~3年で拡がり始めています。ドロップからちょっと手を離して「葬式の指差しマーク」のように人差し指を出している。

あれは日本でもヨーロッパでも、「道路に穴があるから注意しろ」という合図か、「注意喚起で、あそこを見ろ」と言う合図です。それをやられたら、まともな交通法規を学んだ者やヨーロッパ長期滞在者はそっちを見る。そこを急に右折でもされたら接触事故を誘発する。

これは実は多摩サイクリングロードかいわいでも、橋のたもとなどで、よく眼にするのです。あれは元ミニチュアカーとかラジコンが専門だった人たちが雑誌で言っていることで、正しい交通法ではありません。本格でもない。ぜひ正しくやって欲しい。それとも「おてもと変速」に慣れすぎて片手運転できないくらいバランス感覚悪い?

しかし、この50~60年代の小雑誌を見ると、みんな欲をすて、無心にやっていた気がします。本音で正論が書いてある。それが70年代に方向指示器が自転車に付き始めるころから、「儲けるためには重量運搬車と同じぐらい重い、電装品と電池満載の少年用ジュニア・スポーツを売る」と言う具合になった気がする。奇しくもあのフラッシャー付自転車が「インデックス付変速」のはじまりでした。

自転車は基本的な物理学で理解できる機械ですから、流行に惑わされず、本質からずれずに居れば、必ず、日が差してくる、しだいに自分の自転車への理解も、何物にもわずらわされず空に浮く太陽のように、依存せずに自立した趣味のものとなる、と若い人にはよく話しています。

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