私はけっこう寒さには強いと思っていましたが、英国の湿気のある寒さはずいぶんこたえました。
自転車でどこかへゆく、自転車を1~2時間停めておくと、雪でもないのに、サドルにまっ白く霜が積もっていました。これはケム川からくる湿気だとみんな言っていましたが、霜が積もるものだ、というのは英国へ行ってはじめて知りました。
そうした時、コットン・テープの巻いたハンドルなどはもう耐えられない。アイスキャンデー握っているようなものです。
古い英国のブルーメルのカタログを読むと、「寒い中でも手に優しいセルロイド皮膜のハンドル」というようなことが書いてあります。たしかにそうなのです。
日本では知られていませんが、かつてブルックスも合成樹脂のレンサテイック・サドルを作っていました。また新聞の印刷に使う輪転機の外側に使う皮膜の付いた布で作った「テリー型」(現在のテリーとは無関係)もやっていました。それもたぶんそういう気候ならではなのだと思います。
そういうなかを自転車で走り、湯気のこもるティーショップかカフェに入る。また楽しからずや。
これはかつての日本のスキー場で、スキーを終えてロッジに行くと、木の床のところでダルマストーブが燃えていて、そこのまわりの金網に濡れた手袋をほして、甘酒を飲んだ記憶とつながるところがある。
「We are fond of pain. 雪のなかでも紙の窓一枚で住んでいた 日本人もそうじゃないのか?」
どうも最近は空調に甘やかされて、厳しい自然と一緒に暮らす意識は薄れてきたような気がします。