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Channel: 英国式自転車生活
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麻縄の世

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「天善殿、おかげんはいかがでござる?」
「まあ、よくはないが、ここ二月ほどの不愉快な出来事の連続に比べたら物の数ではない。」
「ほう。そのような?何でも頭を痛打して失神するまでになった者に、その後遺症を天善殿のせいであるといいがかりを付けられたとか。」
「それは全体の一部でな。その者の言いがかり、根拠なし審議に及ばずとお奉行様が途中でとめたのじゃ。」
「ほう。それはいかに?」
「すべてが破綻した申し立てで、たとえば、『事故の後遺症があると知りながら、馬にまたがって地面にぺったりと足が付くようなものを作らなかった』と書いていると思えば、自分自身の手紙に『じつは私、ちょうど一年前意識を失うほどの事故を起こしておりまして、、』と、余が馬を届けたあとに書いてよこしていた。手紙により知らせていなかったことは明白。また、『天狗堂の鉄馬に乗って療養所に機能回復処置に行った』と書いていたかと思えば、『事故の怪我は完全に癒えていたので、すべてのことは天狗堂の馬のせいだ』と言い張る。」
「支離滅裂でござるな。」
「お奉行様もそう思って、差し止めたのじゃ。逆に、奉行所としてはおとがめなしとしか判定のしようがなく、その判定が出るやいなや、逆にむこうには遠島六年も視野に入る罪状が確定する。うちから法的に払う必要のないものを払わせた金子があるのでな。まだ若い身であるゆえ、お奉行と話し合って温情の沙汰にした、、そういうことじゃ。」

「天善殿もたいへんな者につかまったものでござるな。」
「その一か月ですっかり体調を壊した。こういう仕事も、この世相では成立せぬな。」
「やる気もそがれたであろう。」
「この一件は、たぶん、大きな転換点になろう。」

「それにしても、おかしな世相にになったものだ。天善殿はいかに見ておられる?」
「かつて明主党を浮遊者たちが大勝させたが、彼らのもとで毒塵壺事件は深刻化し、さらに『頭数人別帳』で我らすべてのことが、幕府によって家畜のように管理されることが決まった。その彼らを大勝させた同じ層が、今度は邪眠党を大勝させ、さらにおかしなことになっている。すべては、そういう連中を勝たせた者たちの思慮の足りなさの問題だ。」

「病米理科の先兵になるという指摘もあるが。」
「病米理科は中東へ出かけて行くのに、この國に足がかりが必要なのだ。ルソン、マイニラは遠く、あそこには回教徒も多い。そこで苛苦戦争以後、完全にこの國はまきこまれているが、それがさらに本格的になるということであろう。」
「清国は?」
「彼らは正面切って対決できまい。金属凧の秘密を盗まれていても、抗議もしない。それは彼らの市場なくば、もはや病米理科も成り立たず、しかも彼らの国債の最大買い受け先は清国だ。一夜にして財政を破綻させて対決を続行不能にすることができるはず。」
「前も後ろも危ういか、、、。」
「おそらくは、この國の売るものも変わるのではないか?」
「と申されるのは?」
「本多藩が鋼鉄凧を作り始めたであろう?密菱も。あれは瑞典の戦闘鋼鉄凧の業者、差阿武のように、やがては武具に打って出る布石ではないのか?そうでなければ、あれほどの不良品を本業で出しつつ鋼鉄凧へ乗り出す意味がわからぬ。」
「考えてもみなかったが。」
「毒塵エレキテル壺と超高速鉄軌道を組みにして売り、四ツ車と鋼鉄凧を同じところでつくらせ輸出をする。さらに電脳板算盤とえれきてるのところには、遠隔監視蜻蛉を作らせて外貨を稼がせるつもりではないのか。」
「そのためにはこの國の農民などは切り捨てる、、それが筋書か、、。」
「そんなところではないかな。新たなる軍閥はそういうところがなるのであろうな。余は天狗なれば、ここまで来てしまったら、浮遊のやからの暗愚を憂いこそすれ、知ったことではない。内藤新宿の天空閣が次の大地震で、今の亀裂がひろがり、1千億両で建て直しとなったら、それの片づけで同じくらいかかるであろう。いやもっとかもしれぬ。何しろ前例がない。それで毒塵壺の事故がもう一回ほど起こらなければ、似非救国のカラスのだみ声はやまぬであろう。それはある意味、自業自得というものであろう。」

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