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Channel: 英国式自転車生活
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レストアと軽々しく言うな

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昨日は夕方4時に仲間と会いまして、彼の手許を離れる戦前の自転車に関して、最終の相談をしました。

買い手が「レストアする」と言っている、そうなのですが、いったい何をレストアするのか見えない。

A出版の「レストア SOT」だったかなんかを読んでレストアをしたいと言っているらしい。しかも「2代目のところでリアのエンドを抜いて入れ替えてもらってレストアするとかとんちんかんなことを言ってるんです。」
「それは、レストアとはいわんだろう。持ち込んで有名なカリスマに壊していただくと言ったほうが正確だな。歪みも変型もヒビもないバーミンガム・サイクロのエンドをどうして抜かなきゃならないんだ?あれは昔自転車技術研究所の仕事を手伝っていたビルダーさんに芯だししてもらって、エンドの平行もヘッドの端面平行もやってある。なんでそれを易者髭に800度で焼いて抜いてもらって、また再溶接してもらう必要があるんだ?フレームチューブなんか3回も火を入れたら『火事場のくぎ』みたいななまくらだろう。乗れない置物作る気なのか?だいたいあの直径の531のチューブなんか手に入らないだろう。」
「いやぁ。チェイター・リーのクランクを再メッキするとかいってますよ。」
「昔のレース用は無駄な肉をぎりぎり削ぎ落としてあるから、再メッキして、イオン交換で炭素が抜けて強度が14%ぐらい落ちたら乗れないだろう。そういってやったら?」
「いや、ラレーの空気入れすぎタイヤ爆発男の、再メッキのクランク見てそういってるんじゃないですかね。」
「じゃ、オレが説明するわ。」

電話で1時間以上説明しました。相手は納得。理由を説明すればわかる話です。一日140km走ってなんともなく、かつ乗りやすい車輌をレストアする必要がない。

「あの車輌塗装を薄くはがすと下から転写シール出てきますか?」
「いや、ないでしょうね。」
「でもA出版の本では下から転写シール出てきていましたよね。」
「考えてみてください。あれって転写シールが98%以上残っていましたよね。」
「ええ。たしかにそうでした。」
「塗装もきれいだった。そういうものの上にわざわざ汚い素人仕事の白い塗装をかける必要がありますか?」
「ないでしょうね。」
「だいたい古い車両のニス貼りの転写シールは有機溶剤で拭けば、図柄は流れて落ちてしまいます。あの雑誌の記事の可能性は2つ。水性塗料を塗ってはがしてみせて、下から転写シールがあらわれたように見せた『やらせ』の可能性。あの本にかかわった男は昔うちへあれこれ訊きに来ていて、私のサンビームの塗装の下から転写シールが出てきたのを見て『俺もやりてぇ~』って言ってましたから。そこからあの企画がもちあがった可能性があります。もうひとつは、あれは乗り手が事故で死亡した車輌で、落としやすい塗料で白く塗った可能性です。自転車事故で乗り手が死亡するとその事故現場に、自転車を落としやすい白い塗料で塗って道路のわきに置いておく風習が欧米にはあります。つまり『ゴースト・バイク』、死亡車輌だった可能性も否定できません。」
「それは怖いですね。」

というわけで、1時間ばかりの電話でわかってもらえました。

数年前、うちに1950年代のフランス車がありました。リアのブレーキの縦を貫通するサイドプル・キャリパーのブレーキが付いていましたが、フレームもボルト方向を変える金具も、フレーム穴は広がり、ブレーキボルトは折れていた。

珍しいラムのブレーキを直付けすればいいな、時代もちょうど合う、と、このところ有名なビルダーのところに『センタープルブレーキ用のボスを直付け』するように頼みました。ところが、あきれたことに、なんとカンティブレーキ用の台座が右側の金具を左側へ、左側の金具を右側へ付けてきました。
「なにこれ?こんなこと頼んだ覚えないよ。」
「えっ、オレは見てない。ああ、ホントだね。ヒドイな。それはね。じつは息子にまかせたんだ。」
「考えなかったのかね。これじゃアームがリムから遠くなりすぎてブザマになるじゃないか。利き方も、引きしろも変わるぜ。」
「あ~らら。オレ知らない。息子に言って。オレやってないもん。」
「こんな細いシートステー、もう一回火は入れたらなまくらでしょ。」
「おっしゃるとおりです。申し訳ない。このまま使って下さいよ。」

まかせる先によっては、正しい指示を出しても、ただメチャクチャにされるだけのこともあります。ご注意を。ましてや素人・ビギナーはやってはいけません。

写真はそのブレーキ部分。台座が裏返しにつけられてしまった。古いオリジナルのシューでは長さが足りない。現代のシューで足を伸ばしています。そういうビルダーが雑誌で古い車両のレストアを語るべきではないでしょう。

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