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Channel: 英国式自転車生活
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フロント変速器

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私が若かった頃、「カンパのFDは競技用だから羽の巾がせまいので、チェンが当たりやすいよ」と言われていました。

チェンジを速くするのに、前の部分を斜めに曲げて巾を狭くしてあったのです。これは現代のロードレーサーを中心とする変速器では当たり前になってしまいましたが、これは古い変速器の中では「異例」のことだったのです。

どこかであったら観察して欲しいのですが、ユーレーのリジドロッドの羽は左右平行です。これはベネルックス、シクロでもサンプレの古いもの、日本の古い変速器も同様でした。

サイクル・ツーリストはフロントの羽が神経質になるのを嫌って、その「変速を速くするための曲げを、わざわざ真っ直ぐに平行にしている人も少なくありませんでした。

いまや、ほとんどの変速器がそうなっている。逆に言うとすべての変速器から「おおらかさ」が消えたといってよいのです。必ず、ラチェットで一段羽を逃がしてやることが必要になったのです。

ちなみに、私が自分で乗っている28号のベネルックスは、後ろをトップ、フロントをインナーにしたときのみ、かすかに動かすだけで済みます。羽の上のほうを使うことになる場合、フロントをアウターにして、リアをローにした時には、逃がす必要がありません。

これをリア4段にすると、どのギアで、どの組み合わせにしても、決してチェンが羽に当らない。

しかもリア4段の厚歯にすると、ただペダルを回して乗っているだけで、しっとりとチェンとコグが巻きつき合って、静かに力強く回ります。音もほとんど出ないし、トルクのかかり方もじつになめらかでいいのです。部品の寿命も長い。

先日、うちから貸し出している車輌のフロント変速器の取り付けベルトが折れたという話がありました。みなさんあこがれのCレコード時代の上級モデルです。これは私ははじめての経験です。ジュビリーのフロントはよく壊れましたが、Cレコード時代のものではツールなどのレースでも壊れたなどと聞いた事がない。

じつは、大阪のショーで、チェーンがからまってはずれなくなるぐらいカンパの変速器をミスシフトして、新品のクランクをズタズタにされ新品のフロント変速器をひんまげられたことがあったので、今回は2回目となりました。ちなみに、その時、新品に交換しているので、1年ちょっとで2つ新品がダメになっている。クランクとあわせると7万円を越えるダメージ。

私の28号には、それの下級グレードが付いていますが、過去10万キロをはるかにこえて、チェンをはずしたことは1度もありません。私の仲間でもそういうことは聞いたことがありません。

「カンパのフロント変速器の古いベルト式のをわけてもらえないかな?」
と古い付き合いの有名店に訊きました。「あるよ」と言われて、出てきたのは8年前のモデル。確かに古いのですが、ナローチェンに入った時代のもので、これだときわめて羽の巾が狭いので、フロントがフリクションレバー引いて、リア5.6.7段で使うときわめて不愉快な音をたてます。残念ですが使えない。せっかく倉庫の奥から出してきてもらったので、買い求めました。またフリダシから探しなおし。

たまたまそこにいた白髪のサイクリストが私と店主の会話を聞いていて、
「そうなんだ。今の人たちは変速が恐ろしく下手だね。うちの息子にも、私の自転車のフロント変速器折られましたよ。あとズボンのすそを爆こぎしていて引っ掛けて折るのもいる。」
そうか、世代的なものか、と理解しました。

フロント・アウター43Tとか45Tとかを使うと、じつにいい感じに「回転トルク」で乗れるので、私はそうやって乗っています。まわりもそれに乗ってみて、みんなそういうレシオになってきました。

そうなると、ベネルックスかカンパのヴァレンチノのフロントでかろうじて変速できます。しかし、それには相応の変速技能が要求される。下手な人がミスシフトしたら、変速器はおしゃか、クランクはきずだらけ、下手をしたらシートチューブを凹ませる。

そう考えると、おいそれとは、誰にでもそういうフロント43Tなどのスペックのものは出せません。

数日前、変速器の変化を調べ、ほぼ全主要モデルを写真に撮って、編纂して自費出版して居られる方がうちへ立ち寄られました。私の日常乗りの28号に試乗されたのですが、一切説明はなしでしたが、一周して来られて、歯先間隔1.5cm(本来は2mm。これ以上詰めると羽の上のチューブ部分にチェンが当たる)もある難物でしたが、何の問題もなく、しかもチェンは全段試された痕跡が見えました。さすがです。「この変速器ははじめて使いましたが、じつに具合が良いですね」と。じつはそれは、その方がその変速器を使いこなして、性能を引き出せる方だと言うことにほかなりません。なかには「これはレバーの引きが重いし、引き始めが粘るから嫌だ」と言う人も3人いました。私は非常に気にいっているので使い続けています。

じつは今日も、イタリアから別の方が来られて、お昼を一緒にしたのですが、「いい具合に良く変速しますね。何か手を加えていますか?」との一言。しかし、私の車輌は、完全な素人さんを乗せるときは、「変速しないように」と言います。頑丈な鉄製の変速器でミスシフトして巻き込みをやられたら、確実にフレームを壊されるからです。

そのイタリアからみえた方は名言を言いました。
「5段は踏み心地やっぱりいいですね。僕は8段以上はふみ心地が悪くなっていて逆に退化していると思います。ひとつも持っていません。」
じつは「8段まで」というのは某有名インプレライダーも言っていました。雑誌や本には書いていませんが。

日本刀は「みねうち」をくらったり、そりの逆側から強い力を加えられると、歯のほうが口をひらいて割れてしまうと言います。

自転車も同じで、その強さと弱さ、繊細な扱いを熟知してやらないと、いかなる名刀でも折ってしまいます。常なる向上心をもって自らの癖を終生落とし続け、自転車の状態を感じ取ること、それが、その「熟達者・練達者が味わっている乗り味を同じように感じるために必要である」と思います。

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