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Channel: 英国式自転車生活
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職人心理

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オートメーションでつくるものは原則どれも似たり寄ったりですが、それでもバラつきがあります。時計のクオーツの心臓部などでも、高いものと安いものは原則同じものだったりします。ただし出来上がった後に試験をしてみるといいのと悪いのがある。精度の高くあがったものは高いものに使う。精度の出なかったはねられたものは廉価品につかう。

機械でミクロン単位でやっていてもそれだけの差が出ます。ましてや手作りのものとなったら、もっとバラつきが出ます。日本のハンドビルト高級車黎明期の打保名人は、いいフレームが出来ると家へもって帰ってそれを眺めながら晩酌していたと言います。

一方で、フォークの曲がりが気に入らないと、つぶして別のものを新しくつくるイッコクモノもいた。

そうかと思うと、チューブを定盤のうえでころがしてみて、当りのチューブのみを選び出し、残りは弟子たちに下げ渡すフレーム名人も現実にいます。

「ああ、そんなチューブの歪みなんかはスルメ焙るみたいにちょっと火をかけてお灸すえて、修正して使えば同じですよ」というビルダーもいる。

同じ人が作っても71点ぐらいから98点ぐらいまでムラがある人がいます。91から96点ぐらいで安定しているビルダーもいる。64点から86点ぐらいまでの人もいれば、スタッフが何人かいて、63点ぐらいのも82点ぐらいのもあるブランドもあります。81~86ぐらいで決して90点台が出ないビルダーもいる。これはもう器械体操などと同じでしょう。天性のものは練習で及ばないものも多い。

フレームは生き物。

ただひとつ、いかなる分野に於いても、ものを作る職人に共通のことは、「イライラしたり、怒って作ったものは必ずダメだ」、ということです。これはヨーロッパでも同じことを言います。

これは不思議なことで、私は外から家へ帰って来たとき、怒っていたり、不機嫌な時は、スイッチを入れた瞬間に電球が切れることがよくあります。脳からそうとうなエネルギーか電気信号が出ているのではないか?と思うのです。

これはビルダーも良く言いますが、気分が乗らないとき作ったものは必ず良くない。

刀鍛冶が、水を浴びたりして身を清めてから仕事に入ったのは、そうした「妖刀」を作ってしまわない、経験から来るものだった気がします。

手作りのものを手に入れたいと思う人は、そこを考えないといけません。

馬は古来、無理に水をのませられないものとヨーロッパでは考えられていました。そのため「水辺へ馬を連れて行っても水はやれない」ということわざがあるくらいです。

オーダー車を乗り継いできた人はその阿吽の呼吸がわかる。「出来上がるまでに邪気を忍び込ませる隙を作らない」というのはじつはこの世界でかなり重要なことなのです。

親方がかつて「なんだこのやろう」と思って作ったフレームがあったのですが、故あって出戻ってきました。結局作り直した。私はこのいきさつを見ていました。外観はちゃんとしているのです。これは私はじつに気をつけているところなのです。そういう気持ちの「澱み・濁り」があるうちは、ほかの出来るものを先にやったりします。私自身、英国の某ビルダーに、へチンズのラグの写しをこしらえて持ち込んだら、いい顔はされませんでした。やはりそのフレームも「なんだこのやろうフレーム」にあがっていました(笑)。

フレームは外観や丁寧さ、工作の凝った具合では判断できないところがあります。

ハンドビルトの自転車界にはクセのある人が多いと思います。このあいだ、うちの車輌に乗っているひと三人と食事をしたのですが、そこでも、もっぱら話題はそのことでした。その三人は、うちの自転車の溶接にかかわっている人などの顔を知りません。
「すごく透明感が高い気がする」
と何台もさまざまなものに乗り継いできた三人が全員一致でそういったのですが、その溶接担当の人はまさにそういう感じで、言い争いになるようなことは絶対ないような人です。
「江戸時代なら、さむらいのかなり上のほうの蘭学者みたいな人だ。」
と私が言ったら、まさにそういう感じがする、と全員一致。

そういう「このやろうの呪い」が付いた車輌を、知り合い二人がそれぞれ二台、売ろうとしていますが(私のところの車輌ではありません)、どうなりますことか。そのうちの1台は「妖車」で、ヒヤッとする事故寸前まで何度かいっています。のっていてボヤっとしたりイライラするんだそうです。

自転車と言うのは「刀剣」のようなものだと、最近はつくづく思います。

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