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Channel: 英国式自転車生活
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キャッチボールVSボールキャッチ

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キャッチボールというのは「日本語英語」です。ボールキャッチというのは「アメリカ語」。

そう一言で言ってしまうと簡単ですが、これは実はかなり深い。「日本のほうは、受け取れるボールが前提になっている気がします」が、「アメリカではボールを受けとめる自分が主体」な感じが私はします。

なぜアメリカ語といったかというと、英国文化圏ではほとんど野球をしないので。インドでもクリケットはさかんにしますが、野球は見たことがありません。

私はいつも感じるのですが、アメリカと英国では会話のやりとりが非常に異なっている気がしてなりません。単語やイントネーション、文法の差でなく、会話の成立のさせ方がきわめて違う気がしてならない。

これは対人関係の成立のさせ方が両国で大きく異なるせいだと思います。これは、何かを伝える時にどういうふうに気を回すか?まで違います。

たとえば、こんな話はどうでしょう。私はすべての話がものすごく英国的だと思うのです。こういう会話はアメリカでは、たぶん、ほとんどないように思うのです。

私がロンドンに着くと、だいたい、あるビルの、会長の部屋に泊まるのですが、その日もそこへ行く、と伝えてありました。ところが顔見知りの宿直の人がくも膜下出血でなくなった直後で、その宿直の人は私を知りませんでした。その宿直の人はちなみにスペイン人でした。

「残念ですが、お名前を書いたメモが見当たりません。ですので、お泊めするわけにはまいりません。」
「それは困ったな。いつもの彼はどうした?」
「2週間前に亡くなられました。」
「いや、別に部屋に泊めてくれなくてもいい、ラウンジでも、地下のボイラー室でもいいよ。明日になれば、マネージャーのワイルズがわかるだろうし、理事長のローズマリーに聞いてもわかるはずだ。」
「それはワイルズさんに聞いてみないとわかりませんので、いずれにしても明日の朝ということになります。」
これはラチがあかないな、と思って、
「それじゃあ、スーツケースを置いていくから、あずかってくれないかな?」
「よろしいですよ。なくならないように、ここのカウンターの下に置いておきます。」
そうして、私は財布とパスポートだけ持って、表へ出たのでした。ここまではそのスペイン人の出稼ぎの人との会話です。

しかし、英国では夜の11時でパブは閉まる、もうそのあと行くところはファーストフードの店ぐらいしかないわけです。そういうところや、パデイントンやキングス・クロスの駅の売店も12時ぐらいで閉まる。朝一番で開く、ルイジのカフェへたどりつくまで5時間も時間をつぶさないといけない。まさにその一夜はチャップリンの「犬の生活」でした。

翌朝、ワイルズは、だいたい朝の7時半に出てきて、そこで朝食をとることになっているのを知っていたので、私も7時半に再登場。そのスペイン人の彼氏、
「昨晩はたいへん申し訳ありませんでした。ワイルズさまがお待ちです。こちらです。」
というのを、
「わかってる。」
と無視して、ずんずん食堂へ。
「R&Fさんたいへん申し訳なかった。さぞかしたいへんだったでしょう。自宅へ電話してくれたらよかったのに。」
「もう10時40分を回ってたから、起こしたら申し訳ないと思ってね。深夜のウインドーショッピングも新鮮だった、I heard the chime of midnight (シェークスピアのセリフ).」
「Yes we did, yes we did (同じくシェークスピアのそのあとを受けるマスター・シャローのセリフ)と言いたいところだが、私は寝ていた。充分あやまることばもありません。しかし、あのスペイン人の彼はあまりに気転がきかないので、さっき配属を変えるのを申し渡しました。ですので、もう、彼の顔を受付で見ることはありません。ご安心ください。」
「それは申し訳にことになったね。」
「いや、当然です。あの状況下ではスーツケースを庭の倉庫かなにかに置いて、貴方を建物のなかへ泊めるのがあたりまえでしょう。もし、貴方が偽者のR&Fでスーツケースが時限爆弾だったら?中のわからないスーツケースをわざわざ宿直の一番近いところに置くのは実に愚かだ。しかも持主はロンドンの闇に消えている。一方、もし、彼の知らなかったR&Fが国賓級の重要な人とか、身辺警護を大切にしないといけない亡命者だったりしたらどうです?そういう人を一晩中朝までロンドンに放り出したとあっては申し開きが出来ません。どちらにしても取り返しが付かないことになります。そういう判断が即座に出来ない者に、窓口をたとえ夜間といえどもやらせるわけにはゆきません。」

こういう気転と状況判断のすばやさは英国人ならではの気がします。ヨーロッパではイタリア人もこういうすばやさがありますが、スペイン、ドイツではあまり感じられない。彼らはどちらかというと「上の判断をあおぐ」。

彼は、そのあと、彼の謝罪が見せかけや社交辞令でないことを示すのに、ストランドの名レストラン、シンプソンズで食事をしましょう、と言ってきました。

そのワイルズにまつわる話は無数にあるのですが、もうひとつ、彼が英国的な会話の人であるエピソードをひとつ。ある晩、私の彼女が、日本からのおみやげを受け取りに、夕飯のあとに私の部屋へ寄ったのですが、お茶などしつつ、遅くまで喋っていました。彼女をタクシーで送っていったのは深夜12時、私が戻ったのは1時過ぎでした。その翌日のワイルズの話。
「R&Fさん、ブラック・キャブでいつも移動するんじゃ高いでしょう。」
「なんでもお見通しだね。この建物の中で起こることは、落とした針も見逃さないんじゃないか。でもあの時間、もう帰っていていなかったはずじゃないか(笑)。」
「スパイでございますよ。R&Fさま。スパイ。私はこの組織のマネージャーですから(笑)。スパイはいたるところにおります。」
「じゃあ、今度はブラック・キャブでなく、安い無線タクシーを呼んでもらおう。しかし、それだと、彼女がどこに住んでいるか、きっと君にバレるな。」
「大丈夫、ご安心ください。私はR&Fさまの味方でございます。ましてや、私たちは理事のジェフリーの悪口を言い合うなかでございますゆえ。ドライバーも無口なものをご紹介いたします。」
「その君も監視されているのか?」
「もちろん。会長でございます。彼女の監視システムは、それは天才的でございます。この建物全体がいわば、彼女の天才的な相互監視システムによって運営されているのでございます。」
「考えてもみなかったね。そうか、彼女にはそういう一面があったのか(笑)。」
「もちろんですとも。たとえば、この壁はものすごく薄い。それはもう、驚くほど薄いのです。会長は隣の部屋の高齢者に異変があったときなど、すぐさま医師を呼べるように、とおっしゃっておりますが、それは別の深慮遠謀が秘められていると、私は睨んでおります。」
「つまり、起こるかもしれないことが起こった時、それが隣にすべて聞こえる、、(笑)。それを未然に防ぐために壁が薄い、、と?(爆)。」
「それが論理的な回答でありましょう。そうとしか考えられない壁の薄さでございます(爆)。まことに会長の智慧は深いとしか申し上げようがございません。R&Fさまもご用心なされますように。」

まあ、これは昨晩はタクシーで送っていったので助かったというのと、万が一のことがあると、自分が板ばさみになって立場がないというのを、みごとにユーモアをまじえて話したのだな、と感心しました。

英国のこころのひだは深いと言わざるおえません。

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