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Channel: 英国式自転車生活
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夢の場所で癒しを売る

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ひのたまはちおうじ地区も、しだいに現代日本の画一化の波がおしよせてきていまして、けっこう喫茶店の名店なども減ってきています。

高幡にある有名なお店も、ご主人が体調を崩してしばらくお休みの時期がありました。そのほか、あと2軒ばかり、やはりご主人の体調不良で早仕舞いや不定休になってきているところがあります。

国立のほうのお店では数年前マスターが亡くなられた。

私がひいきにしているお店のなかには、もうご主人が80歳をはるかに越えている店もあり、すべてはかなりぎりぎりのバランスの上に立っている気がします。

これが、私が70歳、80歳となっていった頃には、もうそういう店が廃業されて、フランチャイズの店しかなくなっていたら、と思うと、「これからますますつまらない世の中になるのかな」と思います。

自転車が一列ならびで選ぶところがないのと同じように、喫茶も選ぶところがなくなるのでしょうか。

そういうお店はマスターの個性で成り立っているので、一ヶ所づつが特別な場所。また、ほかの場所で替わりとすることが難しい。また店主の個性が特定のタイプの客を集めるので、ある種のコミュ二ティがつくられますが、それも消えてしまう。

考えるに、お店と言うのは、うまくいって30年。最高に頑張って親子2代で50年から60年。とくに最近の日本では社会の変化が意図的に速められているところがあるので、「厚みのあるものが育たない社会」になっている気がします。

昔馴染みのある喫茶店へ行ったら、
「このあいだお店にきたら、電気とめられちゃってて、あけてもらうのにたいへんでした」
という話になり、どこもたいへんなのだな、と思いました。

日本の喫茶店というのは、ある意味、1960年代~1970年代の、高度経済生長などに背を向けて、会社員としての成功よりきままな自由を目指した人たちの、独立起業のシンボルであった気がします。

いまでは、そういう一匹狼たちもそこそこの年齢になり、身体をこわしたり、無理が利かなくなったり、存続がむずかしいところが増えてきました。

青春時代からそういう場所を隠れ家に生きてきた私からすると、お茶の水で入っても、京都で入っても、大阪で入っても、店のインテリアが同じ、というようなところは、コンビニの片隅にスツールを置いて、アイスクリームやカップラーメンが食べられるところと選ぶところがありません。

港区の裏のほうに、私がよく行っていた喫茶店があったのですが、そこのお店は信じられないインテリアと道具でした。なかには中庭があり、ギリシャ彫刻のレプリカが蔦を背景にした噴水の前にあり、使われていたのは、真正の1600年代のオークの家具でした。多くの西洋家具の店が、19世紀のものか、19世紀に作られたリプロのものだったなかで、そこのものは英国でも博物館でしか見られないようなものを、惜しげもなく使っていました。カップは古いウースターやストークトンで、スプーンも銀でした。

それらの物は、オーナーの祖父が明治末期から大正時代に洋行したときに集めたものだと聞きましたので、どおりで現代では、英国へ行って探しても買えないようなものばかりでした。

そうかと言って珈琲・紅茶は高くなかった。今のフランチャイズの店の「飲む高カロリー・モカ・ケーキ」と価格は同じ。英国人の友人を連れて行ったら、みんなびっくりすること。
「どう?チャーチル・ホテルウエアじゃないし、ローヤル・アルバートでもないぞ。オールド・ウスターだ。」
「これは、むしろロンドンの一流ホテルのティーより安いと思う。」

あとにも先にも、あのような場所は見たことがありません。消滅がじつに悔やまれる。たしか税務署に滞納金のことでやってこられて、それらの、もう英国でも探すことの出来ないアンテイックをバカみたいな安値で売らざるおえなくなった。そういう時、日本の役所は無慈悲ですから。あそこにあったドローリーフになったジャコビアン期のリフェクトリー・テーブルは、絶品の彫りでした。しかもオークなのにインレイが入っている。あれほどの出来のインレイの入っているジャコビアン・テーブルの現物は私もBATSFORDの1908年発行の新聞紙大の英国のオーク・ファニチュァの画集の写真以外では見たことがありませんでした。買った人から買い戻せないか、と「『あとー』の先代のご主人の親友の故Kさん」と、八方手を尽して必死にトレースして探したものでした。東北のあるところに行った事まではわかっています。

残念なことに、そういう場所は記憶の中にしか残らない。私は世の中はそういう人たちのおかげで楽しくなっていると思うのです。算盤上手なおりこうさんばかりでは世の中がつまらなくなるばかり。

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