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Channel: 英国式自転車生活
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良いものがたくさんある世界

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最初に英国で小さい村の小学校のバザーであるとか、マーケットの古道具を見た時、面白くて仕方がなかった。どうということもない日用品でも、美しいもの、味わい深いもの、面白いものがたくさんあった。

英国とフランスが双璧だろうと思うが、この両国のものには安物でも美しいものやこころ惹かれるものがあった。これは収入レベルの各階層で美しいもの、気に入ったものに囲まれる満足な生活がかつてはあったからではないかと思う。駄物ですらも美しい。

だいたい、古物を眺めていると、『人間は驚くほど大量の美しくないものを作ってきた』というのにしみじみと思いいたる。だいたい年度末には、自転車ショップには誰も欲しがらないような醜いものが『均一棚』に並んでいたりする。価格を下げても、それでも誰も欲しがらない。

和ものの骨董屋へ入っても、大半は欲しくないものと言ってよい。

一方で、ヨーロッパでは屋台にあるものすべてが欲しくなる場合があった。

これはこどものころ買い物の帰りに寄った古本屋の面白さにも似ている。『見たことがない、始めて見るものがひとつだけある』。こういう感覚は、川原で美しい石を見つけたような感覚。『ほかに仲間がいない珍しい生き物を見つけたような気分になった』。

それがだんだん画一化された単一のものになってくる。買い物帰りに、スーパーの2階にあるおもちゃザウルスの自転車を見た。何十種類も並べてあるのですが、変速器はただ一種類しかなかった。同じように、何百台もある駐輪場の自転車のテールランプ・反射鏡を見てみると良い。1~2種類が9割以上なのを発見するだろう。

私は人もものも、味わいのあるものでの多様な世界が面白い。

ある一時期、英国へ行って、そうした『背景にある種の厚みをもった品物』が品薄になった印象を受けた。たとえ、あと1000年経っても骨董品になりっこない、どうしようもないリサイクル品に近いものばかりになった印象だ。

その頃、英国ではまだ、自転車は注目する人がそれほど居らず、普通の街中の自転車店の中古車の中にもずいぶん面白い車両があった。

ある時、その自転車も「これは!」というのが出回らなくなり、そのあとは『エフェメラ』紙の消え物に行った。これを繰り返していると、やがて、目に入った面白いものを買うようになり、特定のものを探すというのをあまりしなくなった。来るに任せる。不思議なもので、縁のある物は、自然と向うから集まってくる。

じつは先週末、ふと橋に擬宝珠が付いているのに気が付いた。どこかにお寺があるはずだと、一人の若い通行人に訊いた。「このあたりにお寺はありません」と断言された。そんなはずはない、ともう一人、歳のころ83歳ぐらいの女性に訊いた。ああ、その先のセメント壁の奥です、表からは良く見えませんが、ちゃんとありますよと、すーーーっと光が差すような笑いを浮かべて教えてくれた。まるで、まだそのお寺の存在を気にかけている人がいるのを喜ぶかのような笑顔だった。

お寺はどうでもよくなった。そういう人が住んでいる界隈であるということがわかっただけで、私は満足だった。

よいもの良い人がたくさんみられるということは豊かだということだろう。

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