Quantcast
Channel: 英国式自転車生活
Viewing all articles
Browse latest Browse all 3751

Folly

$
0
0

はじめてFollyというものを意識して見たのはどこだったか?覚えていません。18世紀のジョージアンの広大な屋敷のはるかかなたに、斜めに傾いた古代の塔があって、「あれは古代遺跡か?」と訊いたら「Follyだ」という答えが返ってきた。

ケンブリッジシャーだったか?サマセットだったか?ウィルトシャーだったか。

ルネッサンス期のイタリアでは古代ギリシャ、ローマの発掘物がある種の熱狂を持って尊ばれたわけですが、英国で18世紀に古代の廃墟を模した「あづま屋」が庭に立てられたのはどういう考えが背景に会ったのか?なかなか興味深い。

シンガポールにいた時、どこもかしこも人工的に整備されていて、なんだかもやもやした、『部屋の中の室内犬』のような感じを持った(笑)。一か所電話ボックスほどの古いヒンドゥーの搭が立っていて、それが妙に気に入ったのを覚えている。

同様の「やりきれない人工物の中のいらだち」を砂漠の中の公園とかにも感じた。土漠の中をひた走って、泉がふもとに湧いている山の頂上にザラシュトラ(ツアラトゥストラ)の神殿を見た時はホッとしたのを思い出す。

アメリカのDCやカンサスシティなどもなんだか落ち着かない。

ようするに、人間の野生の本能が、居心地のよい天然の洞窟とかそういう「隠れが」のようなものがないと満たされないのだろうと思う。

英国の庭園史を学んだ人はご存じと思いますが、18世紀、英国人は風景を造りに作った。多くのゴルフ場のような邸宅の庭の景観は人工的に作ったものです。

そこまでいじりぬいて出来た、その傑作庭園は何かが失われていた。

ヴェルサイユはやはり『人工王国』ですが、やはり足りないものがあるということで、菜園と農家を庭の中につくった。英国人は『廃墟の偽物を庭に作った』というところが面白い。

人間は人間が作った無傷なものには満足できないものだと私は思う。

利休は中年まで、ずっと紹鴎のような「珍しい、手の込んだ茶道具」を使うお茶をやっていて、それがあるところから、永続性のない、カタチのあるものが壊れたり汚れてゆくような素朴なものへ移行した。このあいだ読んだ本で、利休はたいそう菊の花を嫌っていたというのを読んだ。菊は強くて枯れないから。

冬の最後の最後まで枯れないので、フランスでは菊の花を秋に戦士の墓に捧げる。

別のところで、お茶道具は『だれそれが使いました』という『名物』になるわけですが、花だけは枯れてしまうので名物にならないというのがかいてあった。慧眼だと思う。

日本と交易があった阿蘭陀にベイエレンという静物画家がいましたが、彼は花束を描くのに必ず懐中時計を花の下に描いている。あのレンブラントも日本の和紙を使っていたぐらいだから、何か、そういう東洋の思想も17世紀の阿蘭陀に伝わっていたのかもしれない。そのあたりは専門家の研究に任せる。

日本はその方面ではずいぶん先進国であったという気がする。完璧に作って、キズ一つないのは、あとは汚くなってゆくだけ。

日本のお寺の、枯れない金色の蓮の花や、キンキラキンの装飾が金が剥げて、黒ずみ、黄金に輝く像がひび割れたり、すすけてくると、おどろおどろしく、怖い感じになるのはなぜだろう?

これは西洋でも同じです。建築の大物のアンティックの業者の倉庫にゆくと、よく破産したり、統合された教会から出た、そうした金色の教会道具や色が剥げてきた彫像などがあった。なんともおどろおどろしい。

血の赤と金、そして言い知れぬ時と空間の闇の黒。

砂漠の廃墟、ギリシャの廃墟にそういうおどろおどろしい暗さは無い。

昨日の続きになりますが、18世紀の英国のスタイルの中には深い自然が感じられる。人工の楽園ではない、自然が常に肖像画の中でも息づいている。ヴイクトリア朝のものは、もう完全に人工世界になってきているのがわかる。

それの反省か、エドワード朝のものには、そうした自然がもどってくる。シンプルな『ジョージアン・リヴァイバル』という工芸品・家具も多く作られた。

どうも私には20世紀の最後の4分の1の期間と21世紀の初めは、そうした自然をしめ出した、息がつまるほどの「反自然的なもの」が満ち溢れているように見える。

昨今流行りの『ブロカント』などというものも、『ポータブル・FOLLY』ではないのか?

「自転車もいつまでも新品同様」などということはおかしい。やがて朽ち果てても、納屋のわきの雑草にかこまれて風景になるような、そういうものが良いと考えている。

Viewing all articles
Browse latest Browse all 3751

Trending Articles



<script src="https://jsc.adskeeper.com/r/s/rssing.com.1596347.js" async> </script>