昨日、またNHKがフラフラしない自転車の対決番組を凄ワザでやっていたと夜電話がありました。
私は観ていないので、リポートを聞いただけですが、工学系の人たちの惨敗だったらしい。
どういうものだか、倒れない自転車というと、『自転車の仕組みがわかっていない人はすぐジャイロというものを持ってくる』。
1)走行中の自転車の中で最も重い慣性体は乗員であり、その60kgも70kgもある乗員が上部に乗った自転車を倒れなくさせるためにはいったいどれほど巨大なジャイロが必要になるのか?
2)自転車が立っていられるのはジャイロ効果のためではない。なぜなら熟練者は停止した自転車の上でも、足をつかずに立っていられるからです。
3)2人乗りの自転車で、後ろに自転車に乗れない人を載せると、後ろで傾くのを怖がって操縦者とは切り離されてバランスをとろうとするので、非常に乗りにくく、かつ危険である。
ジャイロなど、ついていればいるほど別の危険が出てくる。ロータリーエンジンのモーターサイクルの開発が(ヴァンケル・タイプ)ヨーロッパで行われなくなった背景にはそういう強いジャイロ効果をもつロータリーエンジンの操縦性能の性格が問題になった。
人間のバランス感覚で『脳が総動員されているさまは、小さいCPUなどの制御の遠く及ぶところではない』。
また、そのジャイロ一式の荷台に付けた重量の重さがさらにバランスを不安定にする。
私は電話で「ジャイロは後ろと前とどっちに積んでいた?」か訊いた。
「後ろでした。」
「それは百害あって一利なしだ。もしどうしてもコンピューター制御のジャイロを積むなら前だろう。」
こう書くと、フロントキャリアにジャイロを積むようなことを考える人がいるかもしれませんが、そうではない。グンデルの重量運搬車のようにフレーム本体から前へフロントキャリアを伸ばし、そこへジャイロを積み、フロントのホイールの『回頭バタフライ効果』を小さくしないといけないはず。
キャンピング自転車でも重量物をうしろに積まず、前へ積むのは常識。そうしないとふらつく。いかに電子制御の専門家でも自転車工学の基礎に対する理解が浅いと感じる。
電話リポートによると、その開発の人は母校の東工大へアドバイスを受けに行ったと言っていましたが、その方は東工大の近藤教授がいまから半世紀以上も前にやった自転車の工学の研究を知らないのかな?と思った。
私は近藤教授のメソッドのことをウィーンの国立科学博物館の国際会議で発表したことがある。近藤教授はアメリカで自転車の殿堂入りしており、その時代に、「無人で客観的に自転車のコーナリング特性を調べるためのロボットまで制作している。」
この近藤教授の話は、今度のテレビに出ていたSHIN-ICHI君の父、仁さんとよく話していた。
私のいとこが、娘に買った自転車に乗ってみた話をしていた。
「こどもが自転車に乗っていて、フラフラしているのをみると、あれはこどもが下手だからと思うじゃない?そうじゃないんだな。オレが乗ってもフラフラするよ。あれは自転車がダメなんだな。ただサイズだけ小さくして、走行性能もテストしないC國製の安物だからだよ。」
本来、手放しが得意でなくても、バランスの修正が容易で直進性が良い自転車は存在する。そもそも「手放しでどのくらい長く走れるか?」というのと「ふらつかない」ということは科学的・工学的に別のことだ。博士のしょーけー車は手放しは難しいがふらつかない。
昔のヘッドアングルの寝ている実用車もふらつかないが手放しはきわめてむずかしい。
上に出した競技車両ではヘッドアングル75度にしたら、すでに手放しが極端に難しくなる。しかし、それでふらつかず、路上で安全か?と言ったらそんなことはない。だからNHKの凄ワザの前提条件がすでに無意味なのです。それも工学系もビルダーも何も言わないのはどういうことか?
「SHIN-CHANはどんな自転車を作っていた?」
「フロントのエンドがノコギリみたいになっていて、フォーク・オフセットを変えられるようになっていました。」
「着眼点は合っているよ。ただ、オフセットをいくつにしたらいいか、パラミーターを持っていなくてわからないので、オフセットを可変にして、試行錯誤しようとしたんだろう。アレックスもホイールを小さくするのに、接地面でのセルフ・ライニング・トルクの働く腕の長さをいくつにしたらよいかわからなくて、可変フロント・フォークエンドで実験していたよ。つまりそういう場合のオフセットが掴みきれていなかったということだろう。」
猫式メンドクサイクリングと言うブログをやっている方の『解脱2号』は天使印ですが、彼はその後うちの自転車を入手し、いま28号しか乗っていない。
「いや~、なんていうのかな。解脱2号だとハンドルがキョロキョロして、真っ直ぐ走るのにいつも修正ハンドルをきっていないといけないんですよ。」
28号なら矢のように走り、吸い込まれるように曲がる。自転車の扱いの良さはそこにかかっている。
人間の本来備わっているバランス感覚がもっとも自然に発揮できる設計、、ということが重要なわけで、そうすると、細いサドルの上にヤジロベーのように乗るわけには行かず、サドルが細ければ、ペダルに立たざるおえない。だから手放し実験の車両で細いサドルはありえなかったはず。写真の室内自転車競技のサドルようなものを使えば、トップチューブにぶざまな板を付けて膝でコントロールするような動作は不要だ。そもそもそういうところに金属板を取り付ければ、事故の時には刃物になる。
「正太郎君!28号は無敵だよ!」By 敷島博士(爆)。