関東大震災の時の絵をみると、けっこうリヤカーを引いて逃げている人の図が目立ちます。ワゴンやワンボックスを別とすれば、乗用車の一人当たりの積載空間はあまりない。
スポーツカーとなるともっとない。以前トップ・ギアで3人組がフランスへ行くとき、小ぶりのボストンバッグもフォードGT40に入らなかった。
無尽蔵の富を持ち、プラスチック・カード1枚で旅行をする人向きなのかもしれません。
自転車は車種によってはけっこう積めます。モーターサイクルより積める。さらにリヤカーと組み合わせれば、もっと積める。
しかし問題は、自転車の人間エンジンは0.3馬力しかないということです。
さらに、自転車というのは、本来人ひとりを載せて、ちょっとの荷物を積んで走ることを考えているので、「きゃしゃ」にできています。当然、特別に準備されたフレームでない限りは、そう言う負荷に耐えられない。
たとえば、冷蔵庫の表面の樹脂のように薄いカーボンレーサーのフレームにキャリアを付けて、25kgの荷物を積む勇気は私にはない。
クロモリでも0.8mmとか0.7mmとかの肉厚ですから、軽量フレームは重い荷物を積むことはまったく考えられていません。
それでは、そういう軽量フレームにカートやリヤカーを引かせたらどうか?という話になるのですが、まず第一は、『クイックシャフトにリヤカーやカートを取り付けて引っ張るのでは、クイック芯が細すぎるということです。また、エンドに取り付けることも難しい。
我々はエンドへの応力集中を小さくするのに、エンドを小さいものを使いますが、エンドにリヤカーの取り付け金具を付けるには、そうとう大きいエンドを使わないといけません。そういうフレーム部品を使っている、持っているスチール・フレームビルダーはまずいないでしょう。
不可能ではありません。クロモリの厚板を買ってきて、放電加工機のワイヤーカットで、「糸ノコミシン」のように自在に切れます。エンドだけで万の桁の話になる。
じつはここ2か月で「28号にカートを付けたい」という人が3人やってきました。万が一、地震や火山噴火の時は自転車にカートを付けて逃げることを考えてのことらしい。
それはじつは、車種がまったく違うんだがなぁ、と思う。崩れてきた家の木部品にくっついている釘だの、割れて落ちてきたガラスなどでパンクしないように、タイヤも分厚く重いものが必要でしょう。WW2の時にはそういう軍用のWAR GRADEという釘やガラスを拾わないタイヤがありました。いまはそういうすぐれものはない。
リムも強いものにして、スポークも太いものでないといけない。タイヤもぶ分厚いいものが要るでしょう。
フレームは強化しないといけない。それで、重いものが引けるようにギア比を変える。そうするとタイヤが雨の日や泥道では、トルクがありすぎてすべるでしょう。
さらにリヤカーの取り付けをエンドやチェンステーに持って来たら、何かの時にフレームが負ける。これはちょうど、2匹のクワガタがお互いを投げあっているような具合と考えるとわかりやすい。
古来、日本ではリヤカーは、シートピラーに付けるか、もしくはフレームの縦パイプからユニバーサルジョイントのようなものを出していました。
いずれにしても、自転車の運動性能はずいぶん落ちる。また、後ろで何が起きているか見えないので、伝統的なリヤカーぐらいあれば、自動車からの視認性もあって引っ掛けられませんが、きわめて低いところにあるモダンなカートは、何かの時に大型車に踏まれたら、つながっている自転車の方も無事ではすまないでしょう。
お問い合わせをしてきた人は、四国をカートを引っ張って旅したいということでしたが、実際、私は遍路道などはカートを引きづっては難しいと思う。海辺を行けば岩また岩、山へ入れば、片側は絶壁。自動車道路を走れば大型トラックがたくさんいる。しかも街灯のないところも多い。
かなり新規にゼロから考えて設計しないと、難しいでしょう。