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Channel: 英国式自転車生活
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伝統は時代によって変装する

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その昔読んだ本に、「芸術家は自家用車で移動するが、観客はバスで移動する」という文章をみつけて、おおいに納得したことがあります(雄鶏とアルルカン)。

残念なことに、その「タイムラグ」によって、常に賞味期限が過ぎたころにそのものが認められるようになるのが、世の中の常のようです。

すでに「バッジだけ」「あるいはシンボルカラーだけ」になっても、「かつてのようだ」と思われてブームが続くことがある。

昨年の12月、長年着ていたグレンフェルのコートがついにダメになりまして、新調しました。28年着ました。

そんなに着たというのの大きな理由のひとつは、実に着やすく、ポケットの具合といい、すべてが考えつくされていたからでした。英国で片っ端から袖を通してみて、それが一番着やすかった。いくらだったか価格は忘れてしまいましたが、その時はなぜか羽振りがよく、第一次世界大戦中の英国の将校用の革カバン(これは価格を明確に覚えています650ポンドしました)1ポンドが270円ほどだったのではなかったか?そのときついでに買ったのでした。

いまではグレンフェルは日本の資本に買い取られたようですが、当時は英国王室御用達で、サー・ヒラリーのエベレスト登頂のときの資材を開発したことでも知られていた記憶があります。

そのころの日本では、バーバリやアクアスキュータム全盛で、誰もグレンフェルなどとは言いませんでした。私は天邪鬼なので「流行るとやらない」習性があります。

「またグレンフェルを買おうかな」と思って調べたら、もうデザインがぜんぜん違うものになっていました。

そういう時は目隠しテスト。老舗デパート三軒で、すべてのフィールドコートに袖を通してみて、「ああ、これならいいな」というものにひとつ出くわしました。生地は少々薄く、とてもこれから28年はもたないでしょうが、「まあ、あと28年たったら、病院の廊下を歩くバスローブにこだわってんじゃないか?」というわけで購入。

そのコート、故石津謙介さんのつくった型紙でできている、と会計のとき店員のひとが教えてくれました。ブランドが違っていたので、そんなことはまったく知りませんでしたが、たとえ、彼自身のプロデユースでないにしても、彼の手法をよく知る人が製品化したに違いないと思いました。

VANもつぶれましたし、グレンフェルもほかのブランドも日本に買収された。シーアイランド・コットンも日本が押さえたのではなかったか?

よく知っている英国のある老舗の靴屋の親爺が、某名ブランドの靴を私が手にとって、
「革の匂いも光沢も変わったね。靴の裏の縫い方やつくりも違うようだ。」
と言ったところ、
「さすがでございます。貴方さまがよくお買い求めておられた靴は、今はこちらのグレードでございます。」
「じゃあ、これは名前だけなの?」
親爺は声を潜めて、
「実体はCLークスでございますよ。」
眼をみひらいて、大きく3度ほどうなずいておりました。

こういう世の中ですから、ものをよくよく見ないといけません。

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