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Channel: 英国式自転車生活
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一言の万感

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夢と現実、、、アームストロングに関する本『偽りのサイクル』を読んでいて、彼の周りに居た人たちの心理の動きが、ドラマや小説より面白いと思った。翻訳文章も自然でするする読める。

夢が現実に代わるうち、どんどん似ているけれども骸骨のようになってゆく。実現したように見えてまったく悲惨なものに変ってゆく。

読んでいるとランス・アームストロングがいかに『デモーニッシュ』な恐るべき人物か、ひしひしと伝わって来る。イタリア人のナショナルチャンピオン、シメオーニはアームストロングに脅され、圧力をかけられ、ついに引退へ追い込まれる。彼の人生はメチャクチャにされた。ランディスはポスタルの医師デル・モラルのところに血液ドーピング用の輸血バッグを残すが、義理の父デイビッド・ビッドに保管してもらうのが安全だと考えた。それは仲間への制裁に目の前でそういう血液バッグの中身をトイレに流したり、彼の被害妄想かもしれないが、アームストロングが意図的に保管血液を劣化させたりして、制裁してくることを恐怖に感じたから。

しかし、ランディスは言う『血液ドーピングは最後の手段だ』と。クリーンで走ってアームストロングを負かしたい。しかし、とうてい勝ち目がない。そののち、ランディスの義父ビッドはピストル自殺をする。家族も妻も金も社会的信用もすべてを失い、ついに自分のドーピングの過去の重さから解放されたいとすべてを告白することを決意する。

ザブリスキーも同様。母親にザブリスキーは言われる「すぐに自転車競技をやめたほうが良いわ。あなたがつきあっている人たちは良い人じゃないわ。すぐ家に帰ってきなさい。」

対して、アームストロングはいったい何を得ようとしていたのか?離婚ののちに婚約したシェリル・クロウは彼のドーピングを知っていたという。そして、シェリル・クロウも乳がんをわずらっていることを告白した。そしてアームストロングはその婚約を解消した。

そういう『人生の流れが切り替わるところでの一言』というのは重い。

アームストロングはどういう人生へ舵を切りたかったのか?本を通読すると、『架空の人生のゲーム』のように見える。バート・ランカスターの映画で、エルマー・ガントリーというのがありましたが、アームストロングはその伝道師エルマー・ガントリーによく似ている気がした。ガントリーは伝道師でありながら宗教を信じていない。アームストロングは徹底した無神論者だという。スポーツの純粋性も信じていないように見える。

私の絵の師の友人が、「すべての人の人生は未完で終わるんじゃないかな。そう思いますよ」と通夜の時に言った一言は重かった。そういうことは今まで考えてみたことがなかった。

『架空でなく、現実のある人生』は未完であっても充実感があるのではないか?自分が倒れたところから次世代が引き継げばいい。

私がイスファハン行きの仕事を受けた時、まだ不発弾の処理をしている段階で、市内には黒い布とたくさんの鏡のモザイクを貼った犠牲者の写真をかかげて練り歩いている人たちがたくさんいた。いつ再びイラクと始まるかわからない、ソヴイエトの国境地帯でもごたごたが続いていた。

彼らは約束や計画は思い通りにならないことを知っている。そこで中東の連中は『神が思召せば、、』というまくらことばをいう。

イスファハンを出る時、手紙もさまざまな検閲を受け、国際電話も途中でオペレーターが割り込んで喋って来たりするので、面と向かって会う以外にいままでと同じように話すわけにはゆかない。

『世界中どこにいようと、お互いが別々にいようと、すべて2人の人生が上手く行きますように。神が思召せばまた会おう。』

以後2度と会っていない。

今日は夜、工房を借りようと物件を探している2人と話しました。出来れば借りずに買いたいらしい。一人が「お金をためないと、」と言ったら、もう一人が即座に「それじゃ遅い」。

いま、そこはうまくいっている。「それじゃ遅い」、その人には完成形が見えて動き始めている。ああ、大丈夫だと、なぜか安心しました。

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