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Channel: 英国式自転車生活
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工賃・部品積算法の誤り

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いまから40年ほど昔の話。西風の翁が言っていたことですが、『この部品がいくらだから、これはいくらする』という自転車の計算方法はおかしい』というのです。

その頃はわかったようなわからないような話でしたが、今となってはハッキリ理解できます。

たとえば、実際のところ、ハンドビルドの自転車の価格と言うのは『手間賃』です。部品の価格差より『時間』の問題が大きい。

中獄製のクロモリを使ってもレイノルズのマンガンモリブデンを使っても材料の価格差は2万円ない。

それを反映させる大きい価格差が「付加価値」と言われるのでしょうが、スケールメリットのないハンドビルトの場合は『手間』がかかるものは高くもらわないといけないのですが、世の中は使ってある部品が高額なら高級車と思われがちです。手間がかかっているものが高い値段に踏まれるとは限らない。

ラグ付きよりラグレスのほうが何倍も時間がかかるのに、ラグレスのフレームが何倍もすることはありません。ドリルで『機械的な流れ作業』としてじゃかじゃか穴を開けてつなげていった装飾的なゴシック・ラグが入っていると高く踏まれる。

私の場合、英語関係の仕事をしていた時の時給で計算すると、14時間というと12万円になりますが、『組み立て料12万円です』と言ったらみんな激怒するでしょう(笑)。

なので実質組み立て料はうちはない。そんなことをやっているからビルは建たない。

さらに、設計そのもの、意匠に対するお代というのはどうなるのか?

むかし、陶芸家の浜田庄司が釉薬のかけながしをしているのを見て、アナウンサーが「浜田さん。釉をかけているところは5秒ぐらいなのに、どうして貴方のお皿はそんなに高価なのですか?」と聞いた。
答えて「それは、簡単にやっているように見えるけれど、これには60年と5秒かかってやっとこういう風に出来るからです。」

これはいい一言だなと思う。まず自転車では成り立たない。人間国宝ならそういえる。

この間、1930年代の英国自転車を塗り替えて欲しいという方から連絡があった。
「オリジナルのニス張りの転写シールわけてもらえますか?」
「リプロでないホンモノの車輌ならいいですよ。」
「塗り替えの価格は?」
「転写シール付きで2万5千円ぐらいじゃないかな。」
ホンモノのオリジナルの塗色を何百台も見ている日本人は日本には私しかいない。色は私しか作れない。
「うちは自分の車輌の制作で忙しいのでやりたくないけど。部品を全部はずしてフレームだけにして持って来てください。」
「それがですね。一台丸まるお送りしますので、分解から塗ったあとの組み立て調整まですべてお願いしたいのです。」
「ああ、それならうちではやりません。古い車輌を持つ、それを次世代に伝えるという人がそれではいけないのではないかな。その程度が出来ない人は歴史的名車を買ってはいけないと思います。」
その人は買った車両を誰かに完全に直してもらって、それで「毛織物ラン」に出たいというそれだけが動機らしい。

「なんとか◎万円ぐらいでやってもらえませんか?」
「部品をはずす、錆びている部品は壊れるかもしれない。はずす最中で錆がひどく千切れたりしたら、国際電話をして、それを探さなくてはいけない。そうすると国際電話代で何千円も万の桁でかかるかもしれない。部品を買うとなったら、相手は個人だから銀行送金になりますが、銀行の送金手数料が5千円以上かかる。分解するのに1日。剥離して、磨いて表面をならしたりするのに2日以上。組み立てて2日。調子を出すのに1日。塗装の色出しも考えれば1週間や10日はほかのことがまるで出来なくなります。さらに梱包の手間がかかり、完成車であなたのところまで送るとなると、かなり離れているから2万円はかかる。そのくらいの値段で、そんなことを引き受けてやっていたら私が食えなくなる。」

「そこをなんとか」と40分以上の電話を4回かけてきた。そのうちの一回は私がコールバックしたもらい電話。「こちらからかけ直します」の一言もない。

来年はこういうことから解放されたいと思うばかりです。

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