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Channel: 英国式自転車生活
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パラダイス・ロスト

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1時間ほど前のことですが、携帯に電話が入りまして、今日の夕方、行きつけの喫茶店のマスター神谷さんが亡くなられたと言う知らせがはいりました。入院されたのはほんの2ヶ月半前。片方の耳の聞こえが悪い、というのと、身体がだるいということでの入院でした。

診察の結果は脳腫瘍。
入院の前日、私が店へ入ると、
「ああ、ちょうど良かった、いま店を閉めますから」
と、私が入るなり、ブラインドを閉め、表の電気を消し、
「じつは、検査の結果が良くなくて、脳腫瘍なんです。あちこちに転移も見られるようなんです。」
いろいろと世間話をしたあとに別れて、最後の一言は、
「ちょっと、頑張ってみますわ。」
私が実質最後の客となりました。
最後の彼からのメールは、
「ほかのお店には黙っていてください。」
それに対しての私のメールには、一言だけ
「ありがとうございました。」
万感こもっていたのでしょう。

震災の後の計画停電でも一ヶ所だけ停電しないでいた店の灯りが消える。

国立のマスター同様、煙草好きの方でした、

     煙草

 黄のほてり、夢のすががき、
 さはあまりうれひの華よ。
 ほのに汝を嗅ぎゆくここち、
 QURACIOの酒もおよばじ。 

     北原白秋


彼とは不思議な縁でして、彼のところののれん分けしてもらった国立のマスターは、私の誕生日に亡くなっている。誕生日にたまたま国立にいて、その店へ行ったら、店が閉まっていました。

国立もなくなって、今度はこっちもなくなったので、私の生活基盤が大はばに失われた感じがする。1週間に4~5日行って喋っていましたから。

数日前は、大阪の自転車関係の塗師屋さんのところで不幸がありました。いい喫茶店も店も、職人の町工場もどんどん追い詰められ、少なくなってゆく運命にあるようです。やがて日本は輸入安物の店とファーストフードのフランチャイズと、携帯ショップとコンビニばかりになってゆくのかな、と、諸行無常を感じます。

  うらがなし、落日の黄金
  片岡のえんじゅにあかり、
  鳴きしきるかなかな、あはれ、
  誰葬るゆゑべなるらむ。

      北原白秋

人に寿命があるように、店にも寿命があるというのを感じます。店の記憶というのは、しかし、その場所に行った事のある人しかわからない。店主のいなくなった店の扉は二度と開かない。

  空高き柿の上枝を
  實はひとつ赤く落ちたり
  刹那、野を北へ人霊
  鐘うちぬ、遠く死の歌。

       邪宗門

楽園は永遠に閉ざされた感がある。心よりのご冥福をお祈りします。

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