これは道具を使うものはすべてそうですが、ものを手にして、使ってみて、やってみて、ハッと思うところがある。
それは「正しい使い方がハッと電光が閃くようにわかる」こともあれば、「自分の間違っているところがピンとくる」ことがある。
スキーでもそういうことがあった。スキー自身が曲がろうと言う力をもっていることを知らず、最初の頃は力まかせにギリギリ曲がっていた。それは美しくないし、体力も消耗する。
剣術の稽古で木刀を振っていた時、やはり『力で速くしようとしていた』。筋肉が腕の中でねじれて、ビキッというくらい力まかせだった。ところが重い金属の摸造刀にした時、それがまったく間違っていたのにピンと気が付いた。無駄なく、動作数を減らし、軌跡を省略化して速くする方法があることを気が付かされた。重さ自体と重心の場所を利用して速くすることも道具が教えてくれる。木刀や竹刀より逆に速い。
大昔の自転車は乗り方が違う。実際に所有して乗ってみると、現代の自転車とは違うところで帳尻を合わせていることに気が付かされた。
これはモーリス・ガランの時代(100年ほど前)、ワン・ステージが400kmを超えるようなとてつもない長丁場の自転車レースであった理由が実車に乗って見えた気がした。
昨日ははるか遠方から、28号のオーナーの方がみえたのですが、2台目が欲しいという話でした。だいたいうちの車両が1台手に入ると、そうなる方が多い。
自転車が『こう乗って欲しい』という「芯」のようなものを持っているので、一台行くと自然に何も言わずとも、そういう使い方をしてくださっているところが面白い。
バルケッタは28号に比べてそれが弱い。28号は頑として『自転車のペース』を持っている。バルケッタは速く走ろうとすればそれなりにリミットがはずれてくる感じがする。どちらが良いとか上だとかは決められない。だから両方やっている。
CSのM内さんが1号車に試し乗りした時、「これは走ろうとすると、こたえてくれる自転車だね。最新の多段を入れないのはもったいない」という印象を述べられたのが忘れられない。あの時はシングルでしたから。
どういうことかというと、英国の古い自転車、HETCHINSとかBATESに乗って飛ばすと、実際にやって見たことがありますが、「自分のリミットより先に自転車のリミットが見える」。
カーリーバックは無用なブレがあるし、BATESは下り坂で、シートステーブリッジに一切の補強がないのでブレーキは頼りない、フロントフォークのディアドラントは『じつに挙動の読みにくい柔らかさ』があって、高速のコーナーでペンシルラインで抜けて行くべきところが、ハクボクになったような感じがする。
ある種の自転車は、「ああ、ここまでが自分の心肺機能の限界」というのを感じても、自転車はまだまだゆく気配を感じる。
バルケッタも特別なトレーニングなどをしていない人が一日で400km超級をやって、翌日なんともないのを確認している。それはアップハンドルだったので、ヴェロシオ時代のドロップでやれば、もっと数字が出るだろうと思う。
28号は先を急がないタイプのものなので、サイクリングに使うなら260kmぐらいでタイムアウトのはず。逆に腰や首に弱点があってドロップでの120kmもつらい人が、28号で170km+が可能と言うこともある。と云うか、実際にそういう人がいる。
じつはアンジェロに一度、ツールの2軍の人を借りてどのくらい走るものかやってみたいと思っていた。彼がCを抜けてコロンボのところへ行ってしまったのでかないませんでした。
昨日は2台目の注文の方と会うのに、仙人クラウドで行ったのですが、個性の味付けが700Cとまったく違うので驚いておられた。「ちょっと鳥肌がたちました」というのは最大の賛辞でした。
いまだから言いますと、英国の歴代のロードスターのほとんどを乗って、私がもっとも感心したのは1930年代のDOWESのロードスターでした。ブレーキもスーパーカム式のカンテイのロッドブレーキで、あれは新車の時ゴールデンサンビームより高かった。フルチェンケースなどはいったい何枚の鉄板を手作りで組み上げているのかわからないほど。DOWESは徹底した『安楽椅子』なのですが、本格的長距離サイクリングに耐えうる走りっぷりがあった。ゴールデンサンビームは都市の中での使用か近隣の村ぐらいまでだと思う。
じつは仙人クラウドはDOWESの上を行くことを意識している。
DOWESは良く走りました。しかし、そのために「無用の硬さ」も出てしまっている。いい自転車だったのですが、サンビームが『自転車のロールスロイス』と呼ばれたのに、DOWESが無冠の帝王で、ロードスターに乗りまくった人が辿り着く、知る人ぞ知る自転車だったのは、たぶん、その硬さのせいだったのだろうと思う。
仙人クラウドのことを英国の自転車仲間に訊かれたのですが、ポイントは「rigid yet shock absorbing」と答えました。この背反する2つを上手く獲得するのが、すべてのフレームの難しさでもある。