昔、コッツウオルドに住んでいる画家でたいそう良い絵を描いている人がいました。小品を一枚買ったことがありました。
その私の買った絵が欲しいという人がいて、譲ったので、もう一枚買おうと、その人の家を訪ねたことがありました。ウイルトシャーの新しい家を訪ねると、人も羨むすごい良い家でした。18世紀の家で、なんとも風光明媚なところに建っていた。
ずいぶん成功していた。
「どんな絵が欲しいの?」
「ヒツジのいる英国的な風景の絵が欲しい。」
いろいろと見せてくれたのですが、どれもピンとこない。絵がずいぶん薄まったなと思った。
「スケッチしてないんじゃない?この絵?」
「よくわかるわね。最近は忙しいんで、写真から描いてるのよ。スケッチで描いている余裕がないのよ。」
「ユトリロ式か。」
ちょっと皮肉に言った。ユトリロは晩年有名になりすぎて、表へ出られず、絵葉書から描いていた。
「ここの中には欲しいのはないな。」
そのあと、ビックリした。彼女はカーテンを引くとプロジェクターでさまざまな写真を写しだすと、
「この背景の前にヒツジがいて、このあたりに樹があるってのはどう?」
それは絵じゃなくてイラストだろうと思った。風景のフルチョイス・システム(爆)。
いや~な予感がしましたが、断り切れない感じで、『そう言う風景を見つけて描いてきてよ』とスケッチで描くことを条件にほのめかし、頼んだ。
その絵がやがて届いたのですが、キャンバスが丸めて筒に入って送られてきました。まあ、そういうことをする人もいますが、密輸じゃないんだから、そのまま送れよと思った。筒から出してみると、私の第一声、『 Damn!』。プロジェクターで見せられた風景の合成イラストみたいな油絵でした。
なんともいまいましい感じで、家に置いておくのも鬱陶しかった。友人が結婚したとき、その友人が動物好きだったので、結婚祝いにあげた。
2年後、その友人に「あの絵どうした?」と訊いたら、「飼っていたサルに破かれた」と言ったので私は爆笑した。友人はなんで笑うんだ?大損害だよと不審そうでしたが、私は内心「サルよよくやった」と思っていた。その絵に良い終わらせ方してくれました(爆)。
その画家の友人のほうは、不思議なもので、その後もどんどん賞を取ったりして有名になって行ったのだから世の中はわからない。良い家に住み、良いクルマを持ち、賞もとっているわけですが、果たして、そういう「人間印刷機」をこれからの一生続け、描いている時間は『おしごとの時間』だったら、人生に充実感がなくなるのではないかな?と思った。他の分野なら、充実感がなくなったころには、人を雇って誰かの任せられますが、画家では無理。
そういう風にすり替わって、最初とは全く違うことをやっている人は別の分野でもけっこういます。
あれからちょうど干支が2まわりして、ふと思い出しました。
その私の買った絵が欲しいという人がいて、譲ったので、もう一枚買おうと、その人の家を訪ねたことがありました。ウイルトシャーの新しい家を訪ねると、人も羨むすごい良い家でした。18世紀の家で、なんとも風光明媚なところに建っていた。
ずいぶん成功していた。
「どんな絵が欲しいの?」
「ヒツジのいる英国的な風景の絵が欲しい。」
いろいろと見せてくれたのですが、どれもピンとこない。絵がずいぶん薄まったなと思った。
「スケッチしてないんじゃない?この絵?」
「よくわかるわね。最近は忙しいんで、写真から描いてるのよ。スケッチで描いている余裕がないのよ。」
「ユトリロ式か。」
ちょっと皮肉に言った。ユトリロは晩年有名になりすぎて、表へ出られず、絵葉書から描いていた。
「ここの中には欲しいのはないな。」
そのあと、ビックリした。彼女はカーテンを引くとプロジェクターでさまざまな写真を写しだすと、
「この背景の前にヒツジがいて、このあたりに樹があるってのはどう?」
それは絵じゃなくてイラストだろうと思った。風景のフルチョイス・システム(爆)。
いや~な予感がしましたが、断り切れない感じで、『そう言う風景を見つけて描いてきてよ』とスケッチで描くことを条件にほのめかし、頼んだ。
その絵がやがて届いたのですが、キャンバスが丸めて筒に入って送られてきました。まあ、そういうことをする人もいますが、密輸じゃないんだから、そのまま送れよと思った。筒から出してみると、私の第一声、『 Damn!』。プロジェクターで見せられた風景の合成イラストみたいな油絵でした。
なんともいまいましい感じで、家に置いておくのも鬱陶しかった。友人が結婚したとき、その友人が動物好きだったので、結婚祝いにあげた。
2年後、その友人に「あの絵どうした?」と訊いたら、「飼っていたサルに破かれた」と言ったので私は爆笑した。友人はなんで笑うんだ?大損害だよと不審そうでしたが、私は内心「サルよよくやった」と思っていた。その絵に良い終わらせ方してくれました(爆)。
その画家の友人のほうは、不思議なもので、その後もどんどん賞を取ったりして有名になって行ったのだから世の中はわからない。良い家に住み、良いクルマを持ち、賞もとっているわけですが、果たして、そういう「人間印刷機」をこれからの一生続け、描いている時間は『おしごとの時間』だったら、人生に充実感がなくなるのではないかな?と思った。他の分野なら、充実感がなくなったころには、人を雇って誰かの任せられますが、画家では無理。
そういう風にすり替わって、最初とは全く違うことをやっている人は別の分野でもけっこういます。
あれからちょうど干支が2まわりして、ふと思い出しました。