昔、漆芸の人間国宝の故松田権六氏が、「昔あったものをそっくりそのまま、おんなじに作るのはわけないんです。昔のものと同じぐらいよくって、違うもの作れっていうと、これがなかなかどうして、ちっとやそっとじゃできないんです。」と言っていた。
ある種のものには常にお手本がある。絵でも先生と同じに描く場合がある。それを何世代も続けていると『抜け殻』になって、まったく死んだものに変わってしまう。
たぶん、大量生産の工業品が出始めて100年ちょっと。機械もそういう地点にさしかかっているのではないか?という気がする。
トースターも、冷蔵庫も、洗濯機も、湯沸かし器も、ガステーブルも、すべてお手本がある。
軽自動車もワンボックスカーも4WDも、スポーツカーすらお手本があると言っていい。
お手本にならって、ちょっと細部をいじるだけだから最近の多くのものが感動を呼ばない。
自転車もそうです。いま、21000円以下の町乗り自転車のマークをすべて消して、15台並べて、メーカーをあてられる業者、雑誌編集者はまずいないと思う。
ロードレーサーのフレームをすべて真っ白く塗って、同じグレードの回転系のコンポを付けたら、どのくらいの人がメーカーを当てられるでしょう?これはちょっとやってみたい気がする。
リヴァ―サイドの倉庫で、A.エリック.M博士が、フロントのオフセットその他を、ゼロから実証的にパラミーターを取って寸法決定していた実験車両を見て、やはり違うな、と思った。
日本では英国のモーターサイクルのフロントフォークが日本製のものにピッタリ交換可能の物もあると言われているくらいです。
ここ4日間、ずっと考え続けて、相方の職人さんと打ち合わせをして、可能性のある部品を実際仮留めしたモックアップにつけてまとまりを考え、納得がゆかない選択肢は落としてゆく。
ディスク・ブレーキ、、、、全然合わない。Vブレーキ、、、ちょっとよくある感じ。この2つはスチールフレームと相性が悪いと私は考えている。ディスク・ブレーキとなると、バックホークはある程度固めなければいけない。Vブレーキもリムを押さえる力が強いので、シートステイが反力で広がってしまわないように断面積を増やし、また台座の溶接線長も増やすか、固めないといけない。どちらもシルエットがけっこうブレーキに支配されてしまう。
フレームサイズが小さいほど『頑丈であってはいけない』(チューブのしないやすさは長さの乗数で効いてくるので)はずでが、そうしたブレーキを、体重の軽い人の小さいフレームにつけないといけないというのが、逆になってしまう。
シートステーの貫通は、それをやると前後のブレーキで引いた感触が大きく変わるのがどうも好きになれない。
これはカンティの振り分けワイヤーを、短いのと、2倍の長さのものと、リムとブレーキシューの隙間を同じにして、同じレバーで引いてみるとよい。振り分けワイヤーが長くなるとレバーは「スローになる」。
それと長くなった分、『単位長さあたりの力がかかった時の伸び量が増えるので、利き味はスポンジーになる。
振り分けワイヤーは長くしたくない。
『ああ、こうすれば良いんじゃないかな?』とひらめいた。厚紙でやってみると、、、「ああ、これならシート460mmぐらいでも、カンティブレーキと650Bの泥除けはいるな、、、。」
もちろん、こんな小物はありませんから、自製するしかない。
泥除けに曲面を合わせるのに、鍛冶屋のように真っ赤に焼いて曲げないといけない。これはあぶるのと叩くのと2人がかりでないと出来ません。
「どうだろうね?」
「ああ、これならすんなりいきますね。」
やっと解決か。
我々技術屋の言葉で、『テコる』というのがありますが、テコったものはカッコ悪い。いかにも町の素人発明家がやったように、『普通の仕事を積み重ねただけのゴテゴテした未洗練』に終わる。解決法も、外見も、出来る限り、スッキリと簡素に行きたいものです。
しかし、こういうモノづくりは解決方法がない場合もあるのです。
図は珈琲飲みつつ職人さんに説明するために描いたもの。
しかし、1分の1の図で考えてみても、最終的には乗ってみないとわからない。お手本の無いものとはそういう作り方をするしかありません。このスモールサイズのフレーム、すでにフレームの試作2本を気に入らなくてつぶしているので、3度目で何とか決めたいものです。