関西へ結婚で引っ越した友人が、こどもを連れてお盆で東京へ帰ってきて、滞在ののち帰る時、駅へ見送りにきた父親の目がうるうるだったという話。母上はつい最近NAくなっている。
だいたいこどもというのはどういうものだか年寄が好き。それは何らかの理由で本能的にそなわっているのだろうと私は思う。世代の違う一族が一堂に会する。お盆はそういう意味でも意味深い。
迎え火の時はカーボンフレームのような触感の『おがら』を燃やす密命を帯び、ヒグラシの声を聴きつつ夕方のなかでさまざまなことを想う。
ここ数年、ここ半年でずいぶん友人や親しい人がNAくなった。心中複雑。自転車関係者だけでもここ半年ばかりで、仁さん、北村さん、河合さん、鈴木さん。世代はいやおうもなく変わってゆく。
夏という、植物も昆虫も生命力が一番盛んになる時にお盆があるのは興味深い。ここを過ぎれば植物も紅葉したり、実を付けたり、セミも鳴きながら、ひとつまたひとつと落ちて行き、やがてみんないなくなる。
我々もみんなそうなのですが、多くの人にはそういう実感がない。
「年寄がSHIななかったら困るよ。世代交代できないじゃない。」と仁さんは何度か言っていた。いなくなっても影響を残す人はいる。
お盆休みに入ってから、紙屑整理のついでに写真も不要な、自転車の部品のメモとして撮った写真などはびりびり破いて捨てた。同じ分野のものは同じ引き出しに入れた。あまりよく撮れていないものや、ピンとこないものは同じくびりびり破る。
その時は完全にあるひとりの人のことを忘れていたのですが、その夜、その人が夢に出てきた。それは私が40年以上写真の現像と焼き付けでお世話になった人。私はずっと小学校のころから写真をやり、アルバム委員長とか写真部の部長とかやっていて、学校にその人が現像と焼き付けを教えに来てくれた。まあ、私の写真の師匠に当たる人でした。
忙しくなると、現像、焼き付けはすべてその人に任せた。自分のやってほしいようにやってくれる人は3人しかいなかった。トップはその人、2番目はロンドンのファッション誌の現像を専門にやっているSOHOのJ。3番目は高校時代の後輩で写真部の副部長をやっていた男。彼は今自動車会社の専属の、新型車の写真を撮る人になっているので、なかなか頼みづらい。かくしてそのナンバーワンのお師匠がNAくなってからはフィルムカメラはめっきり出番が減った。
今度のうちはベランダ煙草も苦情が出るので、自分のうちで現像焼き付けなどは臭いのためにとてもできない。
まあ、そういう想いが吹き溜まっていたのか、NAくなった彼が夢に出てきた。彼が夢に出てきたのは生まれて初めて。
「R&Fさん。僕はもういないんだから何でも持ってっていいよ。」
「何でもっていっても、引き伸ばし機は持ってるし、引き伸ばし機のレンズもツァイスを持っているし、カメラはあるしなァ。」
「うちにあるのは、それだけじゃありませんよ。」
彼が出してきたのは、ダボ箱2つぐらいある木箱。
「これはプレゼントしますよ。開けてごらんなさい。」
開けてみると、まばゆいばかりのカンパのBBシャフト(爆)。ついに出たっ、夢の玉手箱(笑)。こういう夢を見るというのはそうとう思い詰めている(爆)。
「R&Fさん、喫茶店の親爺なんてやめなさいよ。中判・大判の写真をやった方が絶対良いって。その方が食えますよ。」
夢の中でそういわれた。
夢とか虫の知らせというのは侮れない。私の友人でインドネシアに行くつもりが、どうしても嫌な予感がすると、何度も電話で言っていて、「計画変更して日本へ行こうと思うが都合は良いか?」と訊いてきた。そして、彼女は日本へ来たのですが、彼女が予約を取っていたその宿が、宿泊予定のちょうどその日にスマトラ沖の大地震の津波でやられた。
私は既視感がけっこうあるほうで、なぜか、初めて英国へ行った時から、私がのちにずっとお世話になった人の名前を『間違えて口走っていた』。初めてその家へ呼ばれたとき、なんだか懐かしい感じがして、初めての家に思えなかった。間取りが普通の家とはかけはなれているのに、まったく迷わずにその家の主のいるところへ行けた。いまだに不思議です。
ある時、私が白い帽子をかぶって、木陰で本を読んでいたら、その家の親戚の人が不思議なことを言った。
「実に奇妙な感じがしたわ。NAくなった~~が白い帽子をかぶって、よく本を読んでいたり、タイプライターをそこで打っていたものよ。」
「へぇ、マーケット・プレイスでこの帽子を見て、なんとなく欲しくなったんで今日買ったんだ。」
「そうよね。あなたが知るはずもないわ。」
みんな、耳元で、なんとなくそういうことをささやかれているのではないか?(笑)
幸いにして私が受ける直感(アドヴァイス)は悪いものではないらしい。感謝しています。
まずは、自転車喫茶はやめたほうがいいらしい(爆)。
中央は命拾いをした友人、このプリントも夢に現れたMさんに焼いてもらった。