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Channel: 英国式自転車生活
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なぜ足を固定しますか?

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私は半世紀近くまえにトークリップストラップを付けて、足をペダルに固定していました。それが今はトークリップもストラップもビンデイングペダルもやっていません。

やはり同じころ、私はスキーもやっていた。最初はHOPEのビンデイング、それがチロリア・ロケットになり、イタリアのコーバーになり、最後はジャン・クロード・キリーが使っていたのと同じネバダのステップインにした。サロモンは使わなかった。

それがいつしか、スキーのビンデイング・メーカーがペダルの業界に入ってきた時、たいへんな違和感を感じたのを思い出します。ビンデイング・メーカーは『似ている業種だから商売になる』と思ったのでしょうが、スキーと自転車の両方を知る私には、両者は本質的なところで違っていると思えたからでした。

スキーの場合、ビンデイングが簡単に外れたら出来ない技がある。設計年度の古いコーバーでは靴が外れて困ることがあった。そこでキリーと同じものにしたのでした。

しかし、自転車でそういうことはありません。

私が先日の1泊2日で山道を走って帰ってきた時、両面踏みのペダルだから登坂で登れなかったとか、下り坂でペダルが滑ってロードに負けたとかいうようなことは一切なかった。

私はグラント・ピーターセンが彼の本の中でビンデイング不要説を述べているのを読んで、「ああ、彼も同じ世代で同じ思いなんだ」と感慨深かった。

ピーターセンの言っていることはまったく正しい。1970年代半ばまでのサイクリング用の靴といえば、革靴でした。それにレーサーシューズは靴底に鉄板が縫い込んであった。

そういう靴ではペダルの上で足が滑って仕方がなかった。そこでトークリップストラップを使用したわけですが、それでもまだ滑るので、私は『ジャック・アンクテイルじるし』のシュープレートを打っていた。これをつけるとストラップを締めるとペダルから足が抜けません。たいへん危険なものです。

その当時から、多くのコーチは『日本人はぺダリングの引き足にこだわりすぎる』と言っていた。1時期シュープレートだけで乗っていた時もありました。私はそのころ、さまざまにやってみていました。レーサーシューズの革底の鉄板が割れることも多く、また自転車を降りて押すときの歩きにくさがあるので、ゴルフシューズのスパイクを外して使ってみたりしていた。

そういう革靴にこだわったのは、樹脂やウレタンで成形された靴は暑くて不快だから。同じ思いはローヴァ―P5のコノリーレザーのシートから、乗り換えた日本車のウレタン成形のシートの熱のこもり方に悩まされたことにも通じる。あえて、樹脂成型の底のビンデイングシューズで自転車に乗ろうと思わなかった。

ある時、30年ぶりに一切のそういうものを外してみた。両面踏みのペダルを入れた。何の問題もなかった。それのきっかけを作ったのはチェイタ・リーのスプリントペダルを使った時でした。以来、クラシックななりわいにするとき以外はトークリップ・ストラップは使わない。固定(フィクスト)で乗る時は、道路にブラックマークを残すほどバックを踏むときなど、トークリップ・ストラップがあったほうが良いと思う時もあるが、1900年丁度ぐらいの固定ギアの車両を体験している自分には、それすら自転車をコントロールするのに必須の物ではない。ダルマ自転車も固定ギアですが、あれにトークリップ・ストラップを付ける阿呆はいない。

トークリップ・ストラップからビンデイングへという移行は、ベルナール・イノーからですが、彼が歴代ツールのチャンピオンではじめて膝を壊した人である歴史的事実は興味深いと思う。サドルが数ミリ高かったからだと本人は言っていますが、それは他の選手でも起こりそうだが、そういう事例は彼の前にはなかった。

ちょうど時を同じくして、自転車のビギナーが自転車趣味に入ってくるとき、「スキーのビンデイング同様、そうしたペダルとシューズも必須だろう」とそっちへ行ったのが、消費の流れに拍車をかけた。そのころ、変速器も何段に入っているかすぐわかるインデックスになって、ビギナーでも多段変速がすぐ使えるようになった。

私の頭の中ではこれら2つはセットのムーヴメントです。

先日、28号のことを問い合わせに来た人がいて、28号にトークリップ・ストラップを付けてくれというので、自転車そのものの注文をお断りした。私自身、そういう足の固定がツーリング車で必要とは思っていないことにくわえ、28号のグランドクリアランスでトークリップを付ければ、裏返った状態では、路面の波うちでクリップの上に自転車全体が乗りあげることになる。

それは自転車のすべての設計・コンセプトを変えることになる。そんなことはやっていられない。それに対応するのが正しいとも思わない。

ビンデイング・ペダルにすれば、クランク軸に対してサドルが後ろにひかれたアップライト・ポジションではペダルから足をねじる動作がやりにくく、膝に過大なストレスがかかる。

私は、昨今膝のトラブルを抱えている人が多く、サイクリングロードで膝にサポーターをしている人をけっこうな数目にするのは、高剛性なクランクとフレームに加え、一回の乗車で何十回も何百回も『足をねじっている』ことと無関係ではないと思っています。

その28号にストラップを付けたいと言った方、「でも前乗っていた自転車で足が滑ったことがあるんです」と言われましたが、それはたぶん、その人のペダルが隣国製の安物で悪かったか、靴の選択が悪かったか、あるいはその人の乗車技術が未熟だからだろうと思う。前の自転車は前の自転車。28号ではない。MTBのコースのようなぬかるみのところへ28号で行くとは思えない。そういうところでは絶対滑らないペダルが必要でしょうけれど。

おおよそすべての自転車の操車技術の中で、もっとも高度でむずかしく、ちからをかけるサイクルサッカーの人はクリップもビンデイングも無しです。それはなぜかを考えたほうが良い。

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