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Channel: 英国式自転車生活
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自転車操業

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これはもう時効だから書いてよいと思いますが、1986~1987年ごろ、世の中はまだカセット・テープが使われていました。それが1本250~400円で売られていた記憶があります。

その時、たまたま、海外から輸入している人から、「隣国Aから輸入すると1本15円。隣国Bからだと5円を切る」と言われてビックリしました。

その当時、ある電子基板、すべて完成品です。表のプラスチック・ケースをそのまま使って入れ替えるだけのユニットが2370円だったのを記憶しています。その完品が10万円ぐらいしていた。

私は精密機械屋でしたから、ちょっと信じられなかった記憶があります。

『機械もの』は決してそれほどの粗利をとることは不可能です。私は粗利が18%を切ったら取り扱いをやめるように会社から言われていた。当然、それらを製造している工場、アッセンブルしている会社もそれほど儲かっていない。

電子関係は儲かるんだな、とその時しみじみ思った。

やがて、それでも電気・電子関係は、なお安売り競争は続いて、みんな消えていった。いまや、純日本製のカメラや携帯電話はほぼないといってよい。

これは自転車でも同じです。

現代の商品はものすごい広告をうつわけですが、昔は広告費はそれほどかけていなかったと思う。広告もサービスも、そうした大きい粗利から出されている。

これは逆に言うと、『迅速なサービスや派手なイメージ広告と引き換えに安物を買っている』という実態だと思う。

いまや、家電も電子機器も洋服も、ありとあらゆる分野でそれが進んでいるといってよいでしょう。

ある自転車メーカーの企画の人が、某大手販売会社に自転車を卸すと、利益は1台200円ぐらいだと言っていました。うまくいって500円。それが、髪の毛ほどのキズがあると『交換に来い』と呼びつけられる。もちろん赤字です。

そうした商材が長年にわたって大量に買ってもらえるか?というとそうでもない。頭を飛び越して、『隣国B』にじかに同じものを作らせたりするそうです。

数年前、最大手のメーカーDKIが倒産した。こんなに売り上げがあるのに、こんなに計上利益が少ないのか?とビックリした。

この構造は小売店でも同じでしょう。一台売って数千円しか儲からないものを、いったいひと月何台売れば、商店街の家賃十数万、光熱費、仕入れの金、店員2人の給料がでるのでしょう?

ある店長さんが「我々自転車屋はせーかつ保護もらったほうがいいくらいですよ」とぼやいた。そうだろうなと思う。今日は私のところへメールが来て、60年続いた自転車店が廃業するので、部品を買わないか、というものでした。

どんどん消滅し、どんどん蓄積文化が薄まってゆく。

中学時代にアルフォンス・ドーデーの『コルニーユ親方の秘密』という小説を読みました。南フランスでどんどん風車小屋が操業をやめて風車が停まってゆく。その中で、コルニーユ親方の風車だけはとまらない。『輸出向けの注文がひっきりなしでね』と毎日袋をロバの背中に積んで運んでゆく。

そのコルニーユ親方が危篤になって、風車仲間がみんなやってきた。「この土地の風車をなくさないでくれ」そう言って息絶えた。その風車小屋、内側の壁も床も、みんな掘り返されていた。コルニーユ親方は小麦の袋でなく自分の風車小屋の土を運び出していたという話。

この歳になって自分が『自転車界のコルニーユ親方になりそうだ』という不安(笑)。

28号が改名して「次のロットからコルニーユ1号」と宣言したら危ないというしるしです(爆)。

今日、またうちの自転車に乗っている人が、うちの自転車を都心の自転車店に乗っていたらしい。その価格を聞いて『それは安い』と言ったようです。それはそうでしょう。うちの完成車の価格とそこのフレームだけの価格とは同じだから。しかもこちらには彼らが作ろうとしないキャリアが付いている。

前にも書きましたが、ヴァレンチーノの言うようにaffordableであることは重要だと思う。安いのはよろしくないが、あまりに高いのも、私はしらける。

興味深いことに、うちの自転車が大きすぎるとコメントしたらしい。何と素人な。ある人がそこのコンピュータースケルトンで適正サイズ510mmと判断された人がパリのアレックスに行ってオーダーしたら570mmのフレームであがってきた。つまりもっとも前傾の強いロードの寸法しかコンピューターに入っていないということです。

私も実はそこのコンピューターで寸法を出してもらったことがある。結果は505mmが適正(爆)。

私は535mmで作り、それでも前傾が強くて長距離乗れなかった。今の私の28号は585mmです。これはアップハンドルではフレームサイズを大きめに作らないとポジションが出ない。安物自転車のように長い汎用ステムを使わないといけなくなる。リベンデールなどはそのあたりがちゃんとわかっているのでヘッドを上に伸ばしている。さすがです。彼は私の車両を見て一瞬にして意味を理解して、これで正しいと思う、Let's keep in touchと言って歩き去った。

まあ、そういうことも同業者間でも理解されなくなってきたらおしまいです。

それはさておき。昨今、オーダー車の世界で、粗利9割のような商品と同様のサービスを求めてくる人がきわめて多い。そういう人はハッキリ言って、安物をお買いになったほうがいい。

こういう人はオーダー車経験ゼロという人がほとんど。フレームに傷をつけないように梱包発送するとなったら、1時間では梱包できない。また自転車が入る箱も梱包材料屋には扱いがありません。

さいわい、私のうちから5kmほどのところに梱包材料屋があるので、自転車で10分ぐらいでサーッと行って、帰りは自転車を押してジョギングで帰って来る(笑)。配達はしてくれません。

まあ、どうでしょうね。そこへ軽トラックのコストをかけ、梱包発送の人員を雇い、場所をまた借りるとなったら、月に出てゆく金額が38万円は増える。月に5台作るとなったら、一台当たり7万円強は値上げとなる。ベンツでも乗ればもっとだ(爆)。

納期を短縮するなら、どこかの誰かさんのように合点で自給870円で人を雇ってヤスリ掛けとか、チェンステーのツブシをやらせればいい。

そこまで主義をまげて、私は自転車を作りたくない。

たぶん、私と同じように考えている職人は少なくない。私の知っている人で「ああ、オレはたいへんになる前に隠居してよかった」と言った人がいる。

そういう隠居・引退のラッシュがそう遠くない時に来る気がします。

土方歳三が毎日道場まで歩いて通った切通を自転車を押して通る。

「リヤカー欲しいと泣く子はいねがー。」
泣かないけどあってもいいかなと思う(笑)。

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