私の場合、自転車は気分よく乗るもの。人が何と言おうとかまいません。これはもう昔っからそうでして、「見栄のためにガマンして乗る」ということが出来ません。
この週末、話した人たちは、もう、人ぞしる自転車の道の大御所3人だったのですが、みなさん「世の中の最近の最新型は乗りにくくって冗談じゃないよね」と言うことでした。
私の時代、「サイクリング車の場合、ドロップハンドルの上とサドルの高さがほぼ同じになるように」と言われたものです。ロードだとドロップの上がちょっとサドルより低い。トラック・レーサーだとかなりハンドルが低い調整が普通でした。
ところが最近のロードは、昔のトラックレーサーと同じくらいハンドルが低い。
これはひとつには、ツール・ド・フランスの全長が短くなったということがあると思います。ファウスト・コッピの時代には総長が5000kmを越え、しかも泥やジャリの道が混じり、ほぼ6000km弱ありました。現代は3000km台なかばで、しかもすべて舗装路。自転車は極端な話、ワンステージもてばよい。もたなくってもサポートカーから代車を投げてもらえます。
たぶん、最新型のロードレーサーでサポートカーを禁止にして、道路の舗装をなくし、全長を昔に戻したら、最新型のロードに最新のポジションで乗ったら、今のレーサーは昔のレーサーに負けるのではないか?私はそういう気がします。現代のトラック・レーサーのようなポジションでビンデイング・ペダルで、6000km弱走れるとは思えないのです。
「強い前傾で地面見て走っていてもしょうがないよ。賞金くれる人がいるわけじゃないし。首あげてれば首がつかれるしさ。」
と大御所A。
「じつはアランを組んでたんだが、もう意図的に規格をかえて互換性をなくしているのが見え透いてて、ほんとうにどうしようもない。おまけに同じメーカーでも時代で互換性がなくなり、工具も変わるんだ。自転車の部品どうしの互換性をなくしたのは実に不愉快だね。それこそが自転車が使い捨てせず長く使える理由だったはずじゃない。それを自動車部品とおなじことをやろうとしているのが許せんね。不愉快きわまりない。」
と大御所B。
「どれもこの頃の自転車は乗りにくくってさ。カッコだけはそれらしいけど。身体はごまかせないからね。」
と大御所C。
なにせ、ある高名なインプレライダーが、「こっちのほうがトルクのかかり方がスムーズで気持ちが良い」と、プライベートでは、わざわざ古い7段とか8段のロード部品をひっぱりだしてつけていたりするんです。
私が困るのは、私が上野ぐらいまでは多摩・八王子界隈から日常的に乗ってゆく、と言っても特別のことに言う普通の人が多いことです。しかし、それは自転車がよくないから難しいので、よい自転車なら簡単なはなしです。
そこまで言って、ではどういうのが良い自転車なのか?というと、その説明にはたいへんな量の説明が必要になります。ここがむずかしいところです。
最高のグレードの部品を使うと良くなるか?というとそんなことはありません。レースではエースを援護して走る人々のことを「アシスト」と言いますが、ヨーロッパのアシストの多くはケンタウルを使っています。エースなどはレコードやスーパーレコードを使う。
「シフテイング・パフォーマンスは同じだ。耐久性も高い。重量はちょっと重いがたいした差はでない。なぜ日本では最高級グレードのもののみに目が行くのか?」
と双輪皇帝はいぶかしがっていました。むしろそこそこのグレードのものをガンガン使い切ってしまうと、逆にそのもののもつ底光りするものが見えてきます。私は中級グレードのカンパを徹底的に使うのが好き。
毎日のように使っていても調子が崩れてこない部品を私は好みます。
そして自転車の総体としての設計がすぐれているもの。
その全体のバランスに向けてすべての細部が決定されているもの。
そういうものは、なんとも言えずよい。
たとえば、クランクの剛性があがると、こんどはスチールフレームのしなう量が大きくなります。クランクがしなえば、フレームはそれほどしなわなくなる。フレームがしなうということは、変速のフィーリングに影響が出て、また、前後車輪のトラッキングラインがずれて、ころがり抵抗が増えることもあります。
そうかといって、クランクとフレームを固めれば、膝や身体に来る。「剛性が何パーセントあがった」とカタログや雑誌がもちあげれば、「それは身体にきそうだな」と私ならBad newsとしてとらえます。レースで勝つためには、多少身体に来ても関係ないのでしょうが、「気分よく乗る」ためには必ずしも必要ではないことです。
これはウチへきたひとには良く話すのですが、スチール・クランクでも、カンパニョーロの3アームのスチールはものすごく固い。しかも小さいリングがはいらないので、膝の具合がよくないひとがあれに「スチールフレームと合うかも知れない」と考えるととんでもないことになります。
数ヶ月前、私のところに28号写しが欲しいといってきた人がいましたが、カンパニョーロのスチールの3アームを入れて欲しい、と言ってきまして、「あ~、うちでは絶対にそういうことはやりませんね」と言って断ったら驚かれました。このところ、雑誌にあのクランクを付けたスチールフレームの車輌が出たりするので、興味を持つ人も多いのかもしれませんが、カンパ党の私が唯一決して使用しないカンパのクランク、持っているものはすべて処分したクランクでもあります。
「高価な部品のクリスマス・ツリー」は気分の上でも思いっきり使い倒せないものです。
変速器などでも、じつはのんびりと気晴らしに乗るサイクリングなら、まったりとした古い鉄の変速器などもよいものなのです。私は古い鉄のサンツアーを使っています。変速器からチェンがワンタッチでとれるので、輪行のときすごく便利です。先日、あるショップへ行ったところ、30歳ぐらいの店員が興味津々で、ちょっと変速しても良いですか?ときいてきて、さかんにいじっていました。彼の生まれる前の未使用新品。「いや、これいいですね。すごく変速いい感じです。」と感心していました。安物ですが決して悪いものではありません。信頼性も高い。使い勝手はグレードや値段ではありません。スキッターなど上手く買えば自転車店の棚の隅に2000円ぐらいでころがっています。超高価な変速器を30%ぐらいのポテンシャルで使うより、そうした良心的に作られたものを90%使いきるほうが楽しいことも多いのです。
そう言いつつ、自分の「決戦用」はオールカンパにしたりします(笑)。この矛盾。どちらもよいのです。
先週、どうしても大阪で試乗したうちの自転車の乗り味が忘れられず、わざわざ飛行機でいらした方がおりました。その方、オーディオのほうも詳しいということなのですが、
「いや、部品構成はこれをそのままお手本にしたいですね。オーディオでも下手に入れ替えるとバランスが崩れて、かえって悪くなったりするんです。」
これは、なかなか良い一言だなと思いました。まさにフレームとクランクの強度のバランスなどもそういう具合なのです。
シクロの変速器、合わせてみたら、フロントアウター44Tでこのぐらい。これはアウター42Tとか40Tでピッタリなようです。ツーリストとしては、坂道の手前にきたら、悠然と降りてインナーに落としてもいいな、と思うぐらいです。驚くほどコンパクトな変速器です。見た目も味わい深い。
「ただ気分よく乗ることにて侯。」
これほど簡単なひとことで、奥が深いことはないように思えます。「勝つためにストレスなし」は私には無意味。レースに出て勝とうとは思わないので。自然を友として生き、気持ちよく自転車に乗りたい。
あ~~、今週も週の初めから過激ですね(笑)。